Jonathan Demme監督『The Manchurian Candidate』(邦題:クライシス・オブ・アメリカ)

洗脳陰謀映画。朝鮮戦争で捕虜になって満洲に送られた米兵が洗脳されて戻ってきて暗殺者になる同名映画のリメイクであるために、今回もタイトルに「満洲」が入っているが、今回は現代の話なのでさすがに満洲は関係ないし、共産主義も関係ない。その代わりに、Manchurian Globalという変な名前の企業が出てきて、これが悪の親玉である。
湾岸戦争の際に、上述の米国企業のマッドサイエンティスト的な奴らにつかまって洗脳され、嘘の英雄譚を偽記憶として植え付けられた兵士たち。その偽記憶の中で英雄役を担わされたShawは上院議員となり、副大統領候補にまで上り詰める。また部隊長であったMarcoも、表向きはちゃんとした退役軍人だが、家では日清カップヌードルばっかり食べ、また記憶している英雄譚に反する内容の悪夢を見て苦しんでいる。
実はShawの、やはり上院議員である母親(Meryl Streep)こそが、上の企業と結託して息子を操り、副大統領にしたうえで大統領を暗殺して息子を大統領にし、自らは黒幕として院政を布こうとしていた。このStreepの演技がものすごい。『Doubt』でもすごかったけどこれもすごい迫力。しかしすごすぎて、こんな手の込んだことしなくても、この人、自分で演説すれば自分が大統領になれるんじゃない? と思ってしまう。
さて、映画としての出来だが、Streepの演技以外は、ちょっとなあという感じ。
まず、陰謀に切迫感がない。未見だが、オリジナルでは、「米国が共産主義化したらどうしよう」という、未来に対する明白にして現在の恐怖があった。ところが今作では、「米国が一企業に乗っ取られる」という非常に抽象的な不安でしかない。Manchurian Globalという企業が何を目指していて、それに乗っ取られると、米国が、そして米国民の生活が、どうなってしまうのかがさっぱりわからない。さらに、この映画を観る人たちは、エンロンとかハリバートンとかを想像しながら、これってすでに起こってるんだよねー、とか言いながら観ているはずだ。それによって本来なら防ぎ得たかもしれない悪が、現在米国に降りかかっている、ということはいえるかもしれないが、しかし、映画で防がれた陰謀がすでに実現している現実の中で観る以上、別に陰謀が成功したところでこの程度のことにしかならないよ、というある種の安心感をもって観てしまう。だから緊張感がない。
次に、終盤、暗殺計画がまさに実行されんとするときに、洗脳から覚めていたShawが計画通りに動かないことによって、結局Shaw母子が射殺されることになる。ところが、いつ、どうやって洗脳から覚めたのかがさっぱりわからない。Marcoの方は覚めずに引き金を引いてしまうのだが、こちらはなぜ覚めなかったのか、それも理解できない。
まあManchurian Globalについては、満洲で、そしてグローバルというのは「五族協和」の発展版ということで、要するに実は日本の帝国主義資本がこの企業の裏には隠れている、という続編が・・・つくられるわけないか。