Aziz Rana, The Two Faces of American Freedom
- Aziz Rana, The Two Faces of American Freedom
- 『アメリカの自由の二つの顔』
人種、移民、大統領制などの論点を、帝国と市民権についての観念の変化という文脈の中に位置づけつつ、植民地期から近代にいたる米国の政治的伝統を大胆に解釈しなおす。これが、本書『米国の自由の二つの顔』である。今日の米国は、巨大な軍事力と経済力を享受する一方で、市民たちは、日々の事柄を自分で意思決定できなくなりつつある。この事態は、必ずしも米国の歴史において常態であったわけではない。著者によると、建国当初のアメリカは、すべてのことを自分で決めるという意味での自由を理想とした入植者社会であった。この理想においては、直接的政治参加と経済的独立が結びついていたのだ。ところがその一方で、この自由観は、周辺的な集団、特に奴隷、先住民、女性の従属ということと、政治的に結びついていた。この、自由と排除、という二つの実践は、それぞれ別の流れなのではない。両者は、同じ一つのコインの表と裏なのだ。
これに対し、いくつかの重大な局面において、従属とも帝国とも結びつかないような自由の観念をつくりあげようとする社会運動が起こった。しかしそれらの運動は、20世紀半ばまでにはすべて挫折し、ハイアラーキー的な国家と企業の諸制度が成立することになった。この新しい枠組みのもとでは、軍事的・経済的安全こそが、社会を牽引する観念だとされ、世界の中での米国の影響力は拡大の一途をたどった。これに対し、著者が構想するのは、入植時代の理想を復活させ、しかし現在米国で周辺的な生活を強いられている人々をも包摂するような民主社会である。
- 『アメリカの自由の二つの顔』