Samuel Moyn, The Last Utopia: Human Rights in History
- Samuel Moyn, The Last Utopia: Human Rights in History
- 『最後のユートピア: 歴史の中の人権』
今日、何百万もの理想主義者が奉じる国際正義の観念の基礎となっているのが、人権である。しかしこの基礎概念としての人権に、我々が親しむようになったのは、ほんの数十年前のことである。しかしこの概念によって、よりよい世の中への我々の希望は根本的にその形を変えることになったのだ。本書は、この比類のない変革をセンターステージにあげ、そこから、人権という理想が現在被っている困難と、不確実な未来について、何が言えるかを考察する先駆的な研究である。
人権の起源はどこか。ある人は西洋文明の端緒からそれはあったといい、別の人はアメリカ革命・フランス革命の時代だという。またさらに別の人は、第二次世界大戦後の、世界人権宣言が採択された瞬間だという。本書は人類の道徳史をドラマティックにめぐり、これらのエピソードを一つ一つ見直していくことで、大多数の人にとって、人権が正義の真の基礎だと考えられるようになったのは、1968年からの10年間であることを明らかにする。社会運動と政治的レトリックが、人権の概念を国連の廊下から世界の表玄関に引っ張り出してのちの数年間で、この概念はヨーロッパを横断し、アメリカ大陸を縦断して、現在あるような形に結晶化したというのだ。
著者の議論によれば、人権が現在至上の価値として扱われているのは、かつてあった政治的ユートピアが一つまた一つと崩壊していった結果である。革命的共産主義や民族主義といった政治的理想が汚れた夢と堕し、人民闘争や暴力の代わりに国際法が求められるようになったことで、個人の権利こそが道徳の基礎だという考え方が前面に躍り出たのだ。しかし現在、人権は様々な政治的アジェンダの一つとして、他のアジェンダと競合関係に入りつつある。その今だからこそ、人権が我々の希望を託した標語となった当時よりも、いっそうの警戒心と慎重さをもって臨まなくてはならないのである。
- 『最後のユートピア: 歴史の中の人権』