憲法:幸福追求権(どぶろく裁判) 司法書士試験過去問解説(平成17年度・憲法・第1問)
平成17年度司法書士試験(憲法)より。設問の全体については、憲法:幸福追求権。
これが判例の立場かどうかが問われているわけですが、ここでいう判例とは、どぶろく裁判の判例のことです。
酒税法では7条で酒類の製造を免許制としています。
では、製造免許を受けないで、自宅でお酒とかつくっちゃったらどうなるでしょうか。酒税法54条によると
というわけで、10年以下の懲役または100万円以下の罰金です! こわいですね。でもそれなら免許受ければいいんじゃない? と思っても、7条2項で、年間にある程度以上製造しない人には免許あげないよ、と書いてあるのです。
で、どぶろくは「その他の醸造酒」に当たり、年間6キロリットル以上つくらないと免許がもらえません。6000リットルですから、自宅で自分で飲む用につくる、というのでは無理ですね。なので免許はもらえず、結局、そういう目的でのお酒づくりは禁止されているわけです。
別に販売目的なわけでもなく、自宅で自分用につくることまで禁止されるなんて! というわけで、酒税法の以上の規定が、憲法13条の幸福追求権の保障に違反するのではないか、というのが問題になります。
最高裁判所の判断は、そういう規制は立法府の裁量権の範囲内であって、著しく不合理であるといえない、として、憲法13条違反ではない、というもので、じつにさらっと上告棄却でした。
なので、そういう規制が13条違反で「許されない」としている選択肢アは、判例の立場ではありません。
個人消費のための酒類製造の自由について争われた「どぶろく訴訟」の上告審判決でも、「(制約が)著しく不合理であることが明白であるとはいえず憲法31条、13条に違反するものでない」と判示したにとどまり、これらの自由が幸福追求権の内容であるか否かは明らかにしていない。
たとえば,酒税の収入確保を目的とする自己消費目的の酒の醸造の禁止は,目的と手段との合理的な関連性が薄い。仮に,これが酒造業者の経営保護を目的としているのであれば,それなりに合理的な規制といいうるであろうが,税収の確保という立法目的をかかげる以上,それと立法手段との合理的関連性を審査することは,特定の利益集団を保護する立法が世論を欺くもっともらしい立法理由によって制定される危険を避けるためにも必要である。それは公正かつ透明な政治過程を維持する司法部の本来の任務である。立法目的との合理的関連性を欠く立法手段を規定する法律は,社会全体の利益に反しており,そのような法律は憲法13条後段に反して,個人の行動の自由を制約していることになる。
もっとも,判例は,租税立法に関しては,立法府の政策上および専門技術上の裁量を広範に認める傾向がある(《サラリーマン税金訴訟》,《どぶろく裁判》など)。
長谷部恭男 『憲法 第4版』 168-169頁