どぶろく裁判判例
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人岡邦俊、同碓井清、同鎮西俊一、同舟木友比古の上告趣意のうち、違憲をいう点の所論は、自己消費を目的とする酒類製造は、販売を目的とする酒類製造とは異なり、これを放任しても酒税収入が減少する虞はないから、酒税法7条1項、54条1項は販売を目的とする酒類製造のみを処罰の対象とするものと解すべきであり、自己消費を目的とする酒類製造を酒税法の右各規定により処罰するのは、法益侵害の危険のない行為を処罰し、個人の酒造りの自由を合理的な理由がなく制限するものであるから、憲法31条、13条に違反するというのである。
しかし、酒税法の右各規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり(昭和28年(あ)第3721号同30年7月29日第二小法廷判決・刑集9巻9号1972頁参照)、これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法31条、13条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁。なお、昭和34年(あ)第1516号同35年2月11日第一小法廷判決・裁判集刑事132号219頁参照)の趣旨に徴し明らかであるから、論旨は理由がない。
同上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例は本件と事案を異にし適切ではなく、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
よって、同法408条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
平成元年一二月一四日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 佐 藤 哲 郎
裁判官 角 田 禮 次 郎
裁判官 大 内 恒 夫
裁判官 四 ツ 谷 巖
裁判官 大 堀 誠 一