憲法:幸福追求権  司法書士試験過去問解説(平成17年度・憲法・第1問)




平成17年度司法書士試験(憲法)より。

憲法第13条に関する次のアからオまでの記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものは幾つあるか。



  •   何人も,自己消費の目的のために酒類を製造する自由を有しているから,製造目的のいかんを問わず,酒類製造を一律に免許の対象とした上で,免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することは,憲法第13条の趣旨に反し,許されない。

  •   何人も,公共の福祉に反しない限り,喫煙の自由を有しているから,未決勾留により拘禁された者に対し,喫煙を禁止することは,憲法第13条の趣旨に反し,許されない。

  •   何人も,個人の意思に反してみだりにプライバシーに属する情報の開示を公権力により強制されることはないという利益を有しているから,外国人に対し外国人登録原票に登録した事項の確認の申請を義務付ける制度を定めることは,憲法第13条の趣旨に反し,許されない。

  •   何人も,公共の福祉に反しない限り,自己の意思に反してプライバシーに属する情報を公権力により明らかにされることはないという利益を有しているから,郵便物中の信書以外の物について行われる税関検査は,わいせつ表現物の流入阻止の目的であっても,憲法第13条の趣旨に反し,許されない。

  •   何人も,その承諾なしに,みだりにその容ぼうを撮影されない自由を有しているから,警察官が,正当な理由もないのに,個人の容ぼうを撮影することは,憲法第13条の趣旨に反し,許されない。


憲法13条にはこう書いてあります。

  • 第13条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

この条文は、基本的人権に対する「公共の福祉」による外在的制約の根拠とされることもありますが、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」、略して幸福追求権を規定したものとして、14条以下で明示的に列挙されていない人権(いわゆる「新しい人権」)を保障するための根拠ともされています。
ただ、どのような権利が幸福追求権として保障されるかは、憲法に明記されていない以上、裁判所がどのように判断するかを見ないとわからないということになります。今回の設問は、実際に裁判所が判例として幸福追求権を認めた事例を選べ、という形式です。
選択肢アは、いわゆる「どぶろく裁判」のことですが、酒税法の規定は違憲ではないというのが判例の立場です。詳しくは、憲法:幸福追求権(どぶろく裁判)
選択肢イは、被拘禁者の喫煙禁止に対する国賠訴訟の判例のことで、これも、旧監獄法の在監者に対する喫煙禁止規定は違憲ではない、というのは判例の立場です。詳しくは、憲法:幸福追求権(被拘禁者の喫煙禁止)
選択肢ウは、外国人登録法で、外国人登録原票の登録事項の確認の申請が5年ごとに義務付けられてること=登録事項確認制度がプライバシー権侵害であって13条違反であるかどうかが争われた裁判のことで、判決では、この制度は公共の福祉の要請によるもので13条違反ではないとしています。詳しくは、憲法:幸福追求権(外国人登録原票・登録事項確認制度)。
選択肢エは、関税法で定められている(信書以外の)郵便物に対する税関検査がプライバシー権侵害だから憲法13条違反だといえるかどうかが争われた裁判で、判決では、税関検査は公共の福祉の要請によるものだから13条違反ではないとしています。詳しくは、憲法:幸福追求権(信書以外の郵便物の税関検査の合憲判例)
選択肢オは、有名な京都府学連事件の判例のことを言っています。なぜ有名かというと、憲法13条が肖像権を保障していることを初めて認めた判例だからです。容貌等を承諾なく撮影されることは肖像権の侵害であり、正当な理由もなく肖像権を侵害するならそれは憲法13条違反であって許されない、と。なので、この選択肢は判例の立場を表しています。詳しくは、憲法:幸福追求権(京都府学連事件)
というわけで、「判例の趣旨に照らし、正しいもの」は、選択肢オだけですから、「1つ」というのが本問の正解ということになります。



憲法 第四版
1960年代以降の激しい社会・経済の変動によって生じた諸問題に対して法的に対応する必要性が増大したため、その意義が見直されることになった。その結果、個人尊重の原理に基づく幸福追求権は、憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利であり、この幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は、裁判上の救済を受けることができる具体的権利である、と解されるようになったのである。判例も、具体的権利性を肯定している。
(略)
これまで、新しい人権として主張されたものは、プライバシーの権利、環境権、日照権、静穏権、眺望権、入浜権、嫌煙権、健康権、情報権、アクセス権、平和的生存権など多数にのぼるが、最高裁判所が正面から認めたものは、前述のプライバシーの権利としての肖像権ぐらいである。



芦部信喜 『憲法 第四版』 115-117頁

憲法〈1〉
その具体的権利性を積極的に肯定するB説が次第に有力になり、今日ではむしろ通説の立場を占めているといってよい。それによると憲法13条の権利は、人格的生存に必要不可欠な権利・自由を包倶する包括的な権利であり、個別の人権とはいわば一般法と特別法の関係にあり、後者の保障の及ばない範囲をカバーする意味をもつものである。このような解釈は、基本的人権保障の趣旨が、もともと個人の尊厳とそれを維持するに必要な条件の保障にあり、単にその一部分の保障だけにとどまるものではないと考えられることと、社会の状況の変化とともに、現実に生命、自由などについて、個別的人権規定では救済しきれない新しい侵害態様が生じている現状に鑑みるとき、適切な方向性をもっているといえる。



野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利 『憲法I 第4版』 263頁

憲法
1960年代以降の下級審判例や1969年の京都府学連事件最高裁大法廷判決をふまえて学説はしだいにその具体的権利性を承認するようになり、後段の権利を「人格的生存に必要不可欠な権利・自由を包摂する包括的な権利」と解する立場が通説となった。この立場では、包括的権利と個別的権利との関係は一般法と特別法との関係を形成し、いわゆる補充的保障説にたって、「特別法たる各個別的基本権規定によってカバーされず、かつ人格的生存に不可欠ないし重要なもの」が一般法としての13条の保障対象になるとする。



辻村みよ子 『憲法 第3版』 169-170頁

憲法 (新法学ライブラリ)
支配的見解は,この条項が憲法の他の条項によって具体的に規定されていない権利を包括的に保障するものと理解しており,判例も,この条項を根拠に本人の承諾なしに容貌や姿態を撮影されない自由や,喫煙する自由を認めている。



長谷部恭男 『憲法 第4版』 152頁

憲法
現在では, 13条で規定された権利と個別的権利の関係について, (略)「個人」の「尊重」および「生命,自由及び幸福追求」という文言の沿革および表現の一般性,そして人権規定の歴史性からして,個別的権利を包括するもので個別的権利を特別法とし,この規定を一般法と位置づける説(独立的保障説,補充説)が妥当である。
(略)
憲法13条から具体的な権利が導き出せるか, という問題につき(略)現在でも,少なくとも裁判において法的効力をもつためには法令の規定が必要とする立場もある。しかし,人権の固有性と人権規定の歴史性から,主観的権利が導き出せるとする考え方が通説・判例となった。そして,議論の焦点は,具体的にどのような権利が導き出されるかという点に移行した。



渋谷秀樹 『憲法』 173頁