憲法:幸福追求権(肖像権・京都府学連事件判例)  司法書士試験過去問解説(平成17年度・憲法・第1問)




平成17年度司法書士試験(憲法)より。設問の全体については、憲法:幸福追求権

  •   何人も,その承諾なしに,みだりにその容ぼうを撮影されない自由を有しているから,警察官が,正当な理由もないのに,個人の容ぼうを撮影することは,憲法第13条の趣旨に反し,許されない。


これが判例の立場かどうかですが、ここで示唆されている判例は、非常に有名な京都府学連事件の判例です。
デモの参加学生に対して、警察官が写真撮影をしたと。それでちょっとあって、結局、学生が旗竿で警察官を突いて怪我をさせたと。で、傷害罪はまあ成り立つにしても、公務執行妨害罪までが成り立つかどうか。問題は、警察官の写真撮影が、適法な職務行為だと言えるかどうかで、言えなければ公務執行妨害にはならない、というわけです。
そこで、この写真撮影が、憲法13条に違反するかどうかが争われました。意思に反して写真を撮られるというのは、13条が保障している幸福追求権の一つであるプライバシー権の一つである肖像権の侵害だ、というわけです。
そこでまずは、憲法13条が一般にプライバシー権を、またその一部として肖像権を、それぞれ保障しているかどうかが問題になります。この点について最高裁は、どちらもイエスと答えます。まず、

憲法13条は(略)国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。

として、「私生活上の自由」という言葉でプライバシー権の保障を確認します。その上で、

個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(略)を撮影されない自由を有するものというべきである。

として、肖像権がプライバシー権の一部であることを確認するわけです。さて、これを憲法13条が保障しているということは

警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。

ということになります。これは上記の選択肢の文言とほぼ同じですね。なので、選択肢オは判例の立場だと言って正解です。



ただ、「正当な理由もないのに」と条件づけていることからもわかるように、「正当な理由があれば」承諾なしの(ついでに令状なしの)容貌撮影も「許される」可能性がありそうです。
実際、判決は、上記の肖像権も「公共の福祉」による制限を受けるとして、一定の条件下では、そういう撮影が許されると述べ、この事件における警察官の撮影行為はその条件をクリアしているので憲法13条違反ではなく、適法な職務行為であり、それゆえ学生の公務執行妨害罪が成立する、と判断しているのです。



憲法 第四版
京都府学連事件  デモ行進に際して、警察官が犯罪捜査のために行った写真撮影の適法性が争われた事件。最高裁は、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する……。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない」と判示して、肖像権(プライバシーの権利の一種)の具体的権利性を認めた。
(略)
このように私法上の権利として認められた、人格権の一つとしてのプライバシーの権利は、前述の京都府学連事件、前科照会事件等の最高裁判決によって憲法上の権利としても確立した。それを広く、個人の人格的生存にかかわる重要な私的事項(たとえば容ぼう、前科などの自己に関する情報)は各自が自律的に決定できる自由、と言うことができよう。



芦部信喜 『憲法 第四版』 116, 118-119頁

憲法〈1〉
最高裁判例には、プライバシーの権利を正面から定義したものはなく、当初はプライバシー侵害という表現を用いないで、実質的にその中身の一部を肯定するものがいくつか見られた。しかし最近では、プライバシー侵害という表現が用いられ、その認められる範囲も広がりを見せているように思われる。
肖像権  最高裁判例はこれを憲法13条を根拠に実質的に認めている。「憲法13条……は、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態……を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない」。



野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利 『憲法I 第4版』 268頁

憲法
京都府学連事件デモ行進に参加した学生Xが、写真撮影した警察官に抗議し傷害を加えて公務執行妨害・傷害罪で起訴された事件である。一審で有罪とされ控訴棄却後、Xは、本件写真撮影は憲法13条の保障するプライヴァシーの権利の一つである肖像権の侵害にあたるとして上告した。最高裁は、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承認なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する。……これを肖像権と称するかどうかは別として少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない。……しかしながら、右自由も、……公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである」として上告を棄却した。



辻村みよ子 『憲法 第3版』 174-175頁

憲法 (新法学ライブラリ)
さらに,このような意味での公開さえ必要とせず,単なる情報の収集が違憲・違法とされる可能性もある。いわゆる肖像権に関連して最高裁は,「個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,その承諾なしに,みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」として「警察官が,正当な理由もないのに,個人の容ぼう等を撮影することは,憲法13条の趣旨に反し,許されない」としたが,「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって,しかも証拠保全の必要性および緊急性があり,かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるとき」には,本人の同意がなく,また裁判官の令状がなくとも,撮影は許されるとした。



長谷部恭男 『憲法 第4版』 159頁

憲法
憲法13条から具体的な権利が導き出せるか, という問題につきかつては消極的に解するのが有力であった。(略)しかし,人権の固有性と人権規定の歴史性から,主観的権利が導き出せるとする考え方が通説・判例となった。
(略)
私生活上の自由については,「憲法13条は,国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解される」とする。最高裁が明確に承認したものとして,「みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由」(肖像権),「みだりに指紋の押なつを強制されない自由」がある。
(略)
京都府学連事件(略)は,写真撮影につき,証拠保全の必要性と緊急性があり,かつ撮影方法が一般的に許容される限度をこえないときは令状は不要としている。
(略)
人の容貌・姿態はそれ自体, 日常生活において秘匿されていないので,その収集も中間審査となる。



渋谷秀樹 『憲法』 173, 176-177, 224, 370頁