郵便物中の信書以外の物の税関検査合憲判例


主文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。


理由


上告代理人中田孝、同根岸攻の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。


同第二点について

郵便物が関税定率法21条1項3号に掲げる貨物に該当すると認めるのに相当の理由があるとして、税関長からその名あて人に対し同条3項の規定による通知がされたときは、当該郵便物については、名あて人において、郵政官署から配達又は交付を受けることができないことになるのである(郵便法13条1項、万国郵便条約(昭和50年条約第17号)33条2ないし4参照)。上告人は被上告人国に対し本件郵便物の配達又は交付を求めることができないとした原審の判断は、結論において正当である。論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない点をとらえてその違法をいうものにすぎず、採用することができない。


同第三点について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。


同第四点について

原審の適法に確定した事実関係の下において、本件雑誌がいずれもわいせつ性を有し、関税定率法21条1項3号に掲げる貨物に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。


同第五点について

憲法21条2項前段にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきこと、関税定率法21条1項3号に掲げる貨物に関する税関検査は右の「検閲」に当たらないものというべきことは、当裁判所の判例最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁)とするところであり、これと同旨の原審の判断は正当である。論旨は、採用することができない。


同第六点及び第七点について

税関検査によるわいせつ表現物の輸入規制は憲法21条1項の規定に反するものではないというべきこと、関税定率法21条1項3号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等とは、わいせつな書籍、図画等を指すものと解すべきであり、右規定が広汎又は不明確の故に違憲無効といえないことは、当裁判所の判例(前記最高裁昭和59年12月12日大法廷判決)とするところであり、これと同旨の原審の判断は正当である。論旨は、採用することができない。


同第八点について

憲法21条2項後段の規定は、郵便物については信書の秘密を保障するものと解すべきところ(前記最高裁昭和59年12月12日大法廷判決参照)、関税法76条1項ただし書の規定によれば、郵便物に関しては、信書以外の物について税関検査を行うものとされており、原審の適法に確定するところによれば、本件の上告人あての郵便物は信書には当たらないというのであるから、右郵便物についてされた税関検査は、信書の秘密を侵すものではない。これと同旨の原審の判断は正当であり、論旨は採用することができない。


同第九点について

憲法13条により、国民が自己の意思に反してプライバシーに属する情報を公権力により明らかにされることはないという利益が憲法上尊重されるべきものとされているとしても、右のようなプライバシーの利益も絶対無制限なものではなく、公共の福祉による制約の下にあるというべきである。わが国内における健全な性風俗を維持確保する見地からわいせつ表現物がみだりに国外から流入することを阻止することとし、そのことをも一つの目的として、郵便物中の信書以外の物について税関検査に服すべきものとすることは、公共の福祉の要請に基づくやむを得ない措置であり、プライバシーの利益もその限りにおいて制約を受けるものというほかなく、郵便物中の信書以外の物についてわいせつ表現物の流入阻止の目的で行われる税関検査は、憲法13条の規定に違反するものではない。このことは、最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁及び前記最高裁昭和59年12月12日大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。右と同趣旨の原審の判断は正当であり、論旨は採用することができない。


同第一〇点について

わいせつ表現物がみだりに国外から流入することを阻止することは公共の福祉に合致するものであり、輸入物品に対する所有権もその限りにおいて制約を受けるものというほかないから、郵便物中のわいせつ表現物の輸入規制に伴うその留置の措置は憲法29条、31条に違反するものではないとした原審の判断は、正当として是認することができる(最高裁昭和29年(オ)第232号同35年6月15日大法廷判決・民集14巻8号1376頁、前記最高裁昭和59年12月12日大法廷判決参照)。論旨は、採用することができない。



よつて、行政事件訴訟法7条、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖
            裁判官    大   堀   誠   一