憲法:選挙犯罪処刑者の選挙権・被選挙権停止  司法書士試験過去問解説(平成21年度・憲法・第2問)




平成21年度司法書士試験(憲法)より。判例の趣旨との合不合を問うもの。設問の全体は、憲法:公務員の選挙

  •   選挙権は,国民主権に直結する極めて重要な憲法上の権利であるから,例えば,当選を得る目的で選挙人に対し金銭などを供与するなど一定の選挙犯罪を犯した者について法律の規定により選挙権や被選挙権を制限することは違憲である。


公職選挙法は11条で、選挙権や被選挙権を有しない者について定めていますが、その2項では、選挙犯罪者に対する選挙権・被選挙権の停止について言及があります。

  • 第11条  次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。(略)

  • 2  この法律の定める選挙に関する犯罪に因り選挙権及び被選挙権を有しない者については、第252条の定めるところによる。

そこで252条を見ますと、

  • 第252条  この章に掲げる罪(略)を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から5年間(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間)、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。

  • 2  この章に掲げる罪(略)を犯し禁錮以上の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から刑の執行を終わるまでの間若しくは刑の時効による場合を除くほか刑の執行の免除を受けるまでの間及びその後5年間又はその裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。

  • 3  (略)の罪につき刑に処せられた者で更に(略)の罪につき刑に処せられた者については、前2項の5年間は、10年間とする。

となっています。ごちゃごちゃしていますが、要するに、公職選挙法違反の犯罪で、

  • 罰金刑になった人は確定してから5年間(累犯の場合は10年間の可能性)、
  • 禁固刑以上の人は受刑中+出所後5年間(累犯の場合は10年間の可能性)、
  • 執行猶予の人は執行猶予期間が終わるまで、

選挙権と被選挙権が停止されることになります。
さて、一般の受刑者の場合は、刑の執行が終われば選挙権・被選挙権は復活します(なので罰金刑とか執行猶予ならそもそも停止自体ありません)(11条)。これに対して252条では、選挙犯罪の場合は、プラス5年間(あるいは10年間)の追加ペナルティを定めているわけで、選挙犯罪者を一般犯罪者と較べて差別していることになります。



さて、ここに差別的取扱いがあるのは明らかですが、それが、憲法の平等規定に違反するんじゃないか、ということが問題になります(選挙犯罪処刑者の選挙権等停止事件判例)。条文でいうと14条と44条但書です。

  • 第14条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

  • 第44条  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。



最高裁の判断は次のとおり。結論は252条は合憲、です。まず、

252条所定の選挙犯罪は、いずれも選挙の公正を害する犯罪であつて、かかる犯罪の処刑者は、すなわち現に選挙の公正を害したものとして、選挙に関与せしめるに不適当なものとみとめるべきである

とします。選挙で悪いことやったやつは、選挙に関与させたらいかんやつやろ、というわけです。なので、

これを一定の期間、公職の選挙に関与することから排除するのは相当であつて、他の一般犯罪の処刑者が選挙権被選挙権を停止されるとは、おのずから別個の事由にもとずくものである。

選挙犯罪者だから選挙について追加ペナルティをくらうのであって、そこは選挙と関係ない一般の犯罪者と一緒にはできないよと。そういうのは差別とは言わないよと。
しかし平等規定違反かどうかはともかく、選挙権・被選挙権が基本的人権なら、そもそもそれを停止することは違憲なんじゃないの、という問題もあります。最高裁は、基本的人権であることは認めつつ、「それだけに選挙の公正はあくまでも厳粛に保持されなければならない」というターンをきめて、選挙犯罪人のような輩は

しばらく、被選挙権、選挙権の行使から遠ざけて選挙の公正を確保すると共に、本人の反省を促すことは相当であるからこれを以て不当に国民の参政権を奪うものというべきではない。

とするわけです。というわけで、公選法252条は合憲だと。したがって、それが「違憲である」としている選択肢アは間違いです。



憲法 第四版
公職選挙法上、禁治産者[現行の成年被後見人]、受刑者(ただし、執行猶予中の者を除く)、選挙犯罪による処刑者などは、選挙権を行使できないこととされている(11条)。これらは、選挙権の公務としての特殊な性格に基づく必要最小限度の制限とみることができよう。(略)
選挙犯罪処刑者の選挙権等停止事件  最高裁は、公選法252条所定の選挙犯罪者は、「現に選挙の公正を害し……選挙に関与せしめるに不適当なもの」であるから、一定期間「公職の選挙に関与することから排除するのは相当」で、それは条理に反する差別待遇でも不当に参政権を奪うものでもない旨判示した(略)。



芦部信喜 『憲法 第四版』 247-248頁

憲法〈1〉
公職選挙法における選挙犯罪者等の公民権停止について、(1)説[=公務・権利二元説]がこれを選挙権の公務としての性格にもとづく最小限度の制限とみるのに対して、(2)説[=権利一元説]は選挙権の内在的制約を超える不当な制限であるとする(略)。この点に関して、(1)説は、そもそも、選挙とは、選挙人団として組織された国民による公職者の選任という公的な性質の行為であることを理由に、選挙権が個々の国民の基本的権利として最大限尊重されなくてはならないとしても、その性質上、選挙人の資格について、最小限度の規制を加えることは当然許されるものとする。これについて、(2)説もまた、公選法上の公民権停止規定は、選挙の公正確保を目的としたものであり、その制限が「必要最小限のもの」であれば許されるとする(略)。したがって、表現の違いを無視すれば、公民権停止に関する実際の判断基準の点では、両説の間に違いは認められない。もっとも、(2)説の場合には、「必要最小限」の基準に照らして、公選法上の選挙犯罪者等に対する公民権停止規定は「人権制約の要件を充足しているかどうか疑わしい」とされる(略)。それが当該規定を違憲とする趣旨かどうか必ずしも明らかではないが、当該規定を右の基準に照らして明確に違憲とするものでない限り、選挙犯罪者等について、その選挙権行使を一定期間停止することは最小限度の規制にあたるとする(1)説との間にさほどの差異はない。
(略)
最高裁は、選挙犯罪の処罰者の選挙権・被選挙権の停止を規定した公選法252条を合憲とした判決(略)において、「国民主権を宣言する憲法の下において、公職の選挙権が国民の最も重要な基本的権利の一である……が、それだけに選挙の公正はあくまでも厳粛に保持されなければならないのであって、一旦この公正を阻害し、選挙に関与せしめることが不適当とみとめられるものは、しばらく、被選挙権、選挙権の行使から遠ざけて選挙の公正を確保すると共に、本人の反省を促すことは相当であるからこれを以て不当に国民の参政権を奪うものというべきではない」とする。右の「選挙権が国民の最も重要な基本的権利の一である」とする判示部分から、最高裁は(2)説に立つものと解することも可能であるが、しかし、判決では「選挙の公正の確保」という選挙権行使の公務的制約の見地から選挙権の制限を理由,つけているので、(1)説の立場をとっていると解すべきであろう(略)。



野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利 『憲法I 第4版』 512, 514頁

憲法
公職選挙法の買収罪で有罪となり選挙権・被選挙権を停止された事件で、被告・上告人は、「選挙権、被選挙権が国民主権につながる重大な基本権であり、憲法上法律を以てしでも侵されない普遍、永久且つ固有の人権である」ことを理由に、公職選挙法が「憲法第14条、第44条の大趣旨に背き社会的身分による不条理な差別をしている」として憲法違反を主張した。最高裁大法廷は「国民主権を宣言する憲法の下において、公職の選挙権が国民の最も重要な基本的権利の一である」としつつ、一旦選挙の公正を阻害し、選挙に関与せしめることが不適当と認められる者は、「しばらく、被選挙権、選挙権の行使から遠ざけて選挙の公正を確保すると共に、本人の反省を促すことは相当であるからこれを以て不当に国民の参政権を奪うものというべきではない」として上告を棄却した(略)。本判決には二つの補足意見があり、その一つである斎藤・入江裁判官意見は、「選挙権については、国民主権につながる重大な基本権であるといえようが、被選挙権は、権利ではなく、権利能力であり、国民全体の奉仕者である公務員となり得べき資格である。……両権は、わが憲法上法律を以てしでも侵されない普遍、永久且つ固有の人権であるとすることはできない」と述べた。



憲法
二元説によると,選挙権は個人の純粋の権利とは違った性格をもつので,公職選挙法で規定された一定の者に選挙権を認めないこと(同法11条1項・252条参照)も,公務としての側面からくる最小限度の制限であり,公務を遂行する能力・資格のない者にはその行使は否定されるとする。もっとも,任務の側面を強調すると,任務のない状態,つまり自由な状態をより多く認めるべきであるとするのが自由主義の要請にかない,選挙の制限については,あまり厳密に考える必要がないことになる。ただし,二元説をとる論者のほとんどが,権利の側面を強調し,そのような議論は現在ほとんどない。最高裁も,「国民主権を宣言する憲法の下において,公職の選挙権が国民の最も重要な基本的権利の一である」とし,また選挙権は「国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利」であるとし、公務的側面には言及しない。しかし,「選挙の公正はあくまでも厳粛に保持されなければならないのであって,一旦この公正を阻害し,選挙に関与せしめることが不適当とみとめられるものは, しばらく,被選挙権,選挙権の行使から遠ざけて選挙の公正を確保すると共に,本人の反省を促すことは相当であるからこれを以て不当に国民の参政権を奪うものというべきではない」とする。最高裁は,正面から二元説を採用していないが,選挙の公正の確保という理由は,公務執行の見地からの制約であるから,二元説をとるものと理解されている。



渋谷秀樹 『憲法』 420頁