憲法:公務員の選挙  司法書士試験過去問解説(平成21年度・憲法・第2問)




平成21年度司法書士試験(憲法)より。

公務員の選挙に関する次のアからオまでの記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。



  •   選挙権は,国民主権に直結する極めて重要な憲法上の権利であるから,例えば,当選を得る目的で選挙人に対し金銭などを供与するなど一定の選挙犯罪を犯した者について法律の規定により選挙権や被選挙権を制限することは違憲である。

  •   国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民である在外国民についても,憲法によって選挙権が保障されており,国は,選挙の公正の確保に留意しつつ,その選挙権の行使を現実的に可能にするために,所要の措置を執るべき責務を負うが,選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能又は著しく困難であると認められる場合には,在外国民が選挙権を行使することができないこととなっても違憲とはいえない。

  •   参議院地方選出議員についての選挙の仕組みには,事実上都道府県代表的な意義又は機能を有する要素が加味されており,このような選挙制度の仕組みの下では,選挙区間における選挙人の投票の価値の平等は,人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較してより強く保障されなければならない。

  •   戸別訪問は国民の日常的な政治活動として最も簡便で有効なもので,表現の自由の保障が強く及ぶ表現形態であり,買収等がされる弊害が考えられるとしてもそれは間接的なものであって戸別訪問自体が悪性を有するものではなく,それらの弊害を防止する手段が他にも認められるから,選挙に関し,いわゆる戸別訪問を一律に禁止することは違憲である。

  •   公務員を選定,罷免することを国民の権利として保障する憲法第15条第1項は,被選挙権については明記していないが,選挙権の自由な行使と表裏の関係にある立候補の自由についても,同条同項によって基本的人権としての保障が及ぶ。


選択肢アは、選挙犯罪処刑者に受刑期間プラス5年(または10年)の選挙権・被選挙権停止期間を設けた公職選挙法252条の話ですが、これは判例では合憲だとされています。なので、この選択肢は、判例の立場としては間違いです。詳しくは、憲法:選挙犯罪処刑者の選挙権・被選挙権停止
選択肢イは、1998年の公職選挙法改正以前には在外選挙制度が存在しなかったこと、その改正によっても選挙区選挙には在外選挙が認められなかったことを違憲とした判例のことですが、この違憲判決は、在外国民の選挙権制限の撤廃が「事実上不能又は著しく困難」と認められなかったことによるもので、それが認められたら制限は「やむを得ない」もので違憲とはいえない、という趣旨ですから、この選択肢は判例の立場として正しい、ということになります。詳しくは、憲法:在外国民の選挙権
選択肢ウは、「都道府県代表的」性格というのは投票価値の平等の要求に対して譲歩・後退を迫る参議院議員の特殊性として出されてくるものです。というか、選挙区制を前提として投票価値の平等を実現しようとするなら、人口比例主義以外にはありえないわけで、この選択肢は判例の立場としても、論理的にも、間違いです。詳しくは、憲法:議員定数不均衡と参議院の特殊性
選択肢エは、戸別訪問を認めることで弊害が生じるおそれがあるとしてもそれが表現の自由を制限する十分な理由にはならないというのは、伊藤正己裁判官の補足意見の立場ではありますが、しかし伊藤裁判官自身も、選挙運動のルール設定における国会(立法)の裁量の大きさに依拠して合憲判断を下しているし、常識的に、選挙のときに候補者が家に来たりすることはないことからも、いまも戸別訪問が禁止されていることはわかるわけで、どちらにしても判例の立場として間違いです。詳しくは、憲法:戸別訪問の禁止
選択肢オは、公職選挙法が採用している立候補制の選挙制度の下では、立候補が自由にできないとしたら、選挙人が本当に投票したい人に投票することができなくなるという事態がありうるので、立候補の自由と選挙権は表裏一体だとした三井美唄炭鉱労組事件の判例と同じことを述べていますので、判例の立場として正しいことになります。詳しくは、憲法:被選挙権の権利性
というわけで、選択肢群の中で、判例の立場と一致することを述べているのはイとオでした。