憲法:幸福追求権(信書以外の郵便物の税関検査の合憲判例)  司法書士試験過去問解説(平成17年度・憲法・第1問)




平成17年度司法書士試験(憲法)より。設問の全体については、憲法:幸福追求権

  •   何人も,公共の福祉に反しない限り,自己の意思に反してプライバシーに属する情報を公権力により明らかにされることはないという利益を有しているから,郵便物中の信書以外の物について行われる税関検査は,わいせつ表現物の流入阻止の目的であっても,憲法第13条の趣旨に反し,許されない。


税関検査の違憲を主張する訴訟はいくつもありますが、これはその中でも、税関検査がプライバシー権侵害であるから憲法13条違反だ、とするものです。判例はこれです
まず、関税法69条の11で、「次に掲げる貨物は、輸入してはならない」とされています(当時は、関税定率法21条1項)。輸入してはいけないものがあるんですね。それを列挙した中に、

  • 7  公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品

というのがあって、ここでいう「風俗を害すべき」とは「猥褻な」ということですので、猥褻な本とかは輸入してはいけない、ということになっています。
輸入してはいけないものがあるということは、その「貨物」が輸入していいものかどうかをチェックする必要が出てくるということで、関税法67条で、税関検査が定められています。

  • 第67条  貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は(略)貨物につき必要な検査を経て、その許可を受けなければならない。

郵便で輸入しようとする場合も同じで、チェックを受ける必要がありますが、ここで、憲法21条2項後段の

通信の秘密は、これを侵してはならない。

との兼ね合いが問題になってきます。郵便物を検査することは「通信の秘密」を侵害することにはならないのか、という問題です。そこで、郵便物について「通信の秘密」とは何に当たるのかということですが、それは判例で「信書の秘密」のことだとされています。それゆえ、郵便物を税関検査するときに「信書の秘密」を侵害すると憲法21条2項に違反することになります。
これに対応して、関税法76条但書では

ただし、税関長は、輸出され、又は輸入される郵便物中にある信書以外の物について、政令で定めるところにより、税関職員に必要な検査をさせるものとする。

とし、76条2項では

税関職員は、前項但書の検査をするに際しては、信書の秘密を侵してはならない。

としています。というわけで、郵便物のうち、信書に対しては税関検査はされませんが、それ以外の物についてはされるわけです。上記の選択肢に、「郵便物中の信書以外の物について行われる税関検査」と書いているのは以上の事情によるものです。
そこで、信書以外の郵便物に対する税関検査は「通信の秘密」を侵すものではないにしても、憲法13条で保障される幸福追求権の一種であるプライバシー権を侵すものではあるのではないか、ということが問題になってくるわけです。これが上記選択肢の主題です。
では最高裁はどのように判断しているのかというと、まず、

憲法13条により、国民が自己の意思に反してプライバシーに属する情報を公権力により明らかにされることはないという利益が憲法上尊重されるべきものとされている

として、憲法13条がプライバシー権を保障していることを確認した上で、

プライバシーの利益も絶対無制限なものではなく、公共の福祉による制約の下にある

として制約の可能性を認めます。では、税関検査によるプライバシー侵害が、「公共の福祉」によるものであるかどうかが問題になりますが、最高裁は、

わが国内における健全な性風俗を維持確保する見地からわいせつ表現物がみだりに国外から流入することを阻止すること

を目的とする税関検査は、「公共の福祉の要請に基づくやむを得ない措置」なのでプライバシー権の制約もしょうがないと判断しています。というわけで、税関検査はプライバシー権の侵害だけど、憲法13条には違反しない、というのが判例の立場ですから、選択肢エは判例の立場ではありません。