憲法:幸福追求権(外国人登録原票・登録事項確認制度)  司法書士試験過去問解説(平成17年度・憲法・第1問)




平成17年度司法書士試験(憲法)より。設問の全体については、憲法:幸福追求権

  •   何人も,個人の意思に反してみだりにプライバシーに属する情報の開示を公権力により強制されることはないという利益を有しているから,外国人に対し外国人登録原票に登録した事項の確認の申請を義務付ける制度を定めることは,憲法第13条の趣旨に反し,許されない。


日本には、「本邦に在留する外国人の登録を実施することによつて外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もつて在留外国人の公正な管理に資することを目的とする」(1条)、外国人登録法というものがあります。
まず、「本邦に在留する外国人は、(略)その居住地の市町村(略)の長に対し、次に掲げる書類及び写真を提出し、登録の申請をしなければならない」(3条)とされています。
で、この登録申請をうけた市町村の長は、その外国人について外国人登録原票をつくって、「これを市町村の事務所に備えなければな」りません。この登録原票には、氏名、性別をはじめ、職業や居住地や世帯構成員の情報などが記載されることになります(4条)。
この登録原票は、最初に一回登録してしまえばおわり、というものではなく、5年ごとに

その居住地の市町村の長に対し(略)登録原票の記載が事実に合つているかどうかの確認を申請しなければならない

とされています。これを登録事項確認制度といいます。今回の選択肢は、この制度が憲法13条で保障される幸福追求権(プライバシー権)を侵害するものだ、と主張する内容です。これが判例の立場かどうかが問われています。憲法13条というのは

  • 第13条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

ですね。ここで判例というのは、外国人登録原票・登録事項確認制度訴訟判例のことです。
この判例ではまず、憲法13条がプライバシー権を保障するものであることを確認しています。

憲法13条により個人の意思に反してみだりにプライバシーに属する情報の開示を公権力により強制されることはないという利益が尊重されるべきである

ところがその直後に「としても」と続けて、その権利は「公共の福祉」によって制限されうるものだということも、あわせて確認しています。

(略)尊重されるべきであるとしても、右のような利益ないし自由も無制限なものではなく、公共の福祉のために制限を受けることは、憲法13条の文言から明らかである。

となると次の問題は、どんな場合に、プライバシー権の制限が「公共の福祉」による制限だと認められるのかということですが、それについては「立法目的の合理性、制度の必要性、相当性が認められる」かどうかだとします。
そこで、では、上の登録事項確認制度に「立法目的の合理性、制度の必要性、相当性が認められる」かどうかが最後に問題になりますが、それについてはこの制度が

本邦に在留する外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国入の公正な管理に資するという行政目的を達成するため、外国人登録原票の登録事項の正確性を維持、確保する必要から設けられたもの

であるため、「その立法目的には十分な合理性があり、かつ、その必要性も肯定することができる」と認めます。合理性と必要性はクリアです。残るは相当性ですが、この制度で

確認を求められる事項は、職業、勤務所等の情報を含むものであるが、いずれも人の人格、思想、信条、良心等の内心に関わる情報とはいえず、同制度は、申請者に過度の負担を強いるものではなく、一般的に許容される限度を超えない

ので「相当」だとしています。というわけで、すべての条件をクリアしたので、この制度による人権の制約は「公共の福祉」によるものであり、違憲ではないという結論になっています。
というわけで、この制度が「許されない」としている選択肢ウは、判例の立場ではありません。