憲法:人権の私人間効力  司法書士試験過去問解説(平成15年度・憲法・第2問)




平成15年度司法書士試験(憲法)より。

憲法が定める人権規定の私人間における効力について,次の二つの見解がある。

  • 第1説  憲法が定める人権規定は,直接,私人間にも適用される。

  • 第2説  憲法が定める人権規定は,民法第90条の公序良俗規定のような私法の一般条項を媒介として,間接的に,私人間に適用される。


次の1から5までの記述のうち,正しいものはどれか。
  • 1  第1説は,第2説に比べて,基本的人権は国家権力に対して国民の権利及び自由を守るものであるとする伝統的な考え方により適合する。

  • 2  「各種の社会的権力が巨大化した現代社会においては,憲法の定立する法原則が,社会生活のあらゆる領域において全面的に尊重され,実現されるべきである。」とする考え方は,第l説よりも第2説に適合する。

  • 3  第1説から第2説に対して,純然たる事実行為による人権侵害に対する憲法による救済が困難になる可能性があるとの批判が可能である。

  • 4  第1説から第2説に対して,私的自治の原則は市民社会の基本原則として妥当し,当事者の合意,契約の自由は原則として最大限に尊重されるべきであるとの批判が可能である。

  • 5  第2説による場合,私人間の人権対立の調整は,専ら立法にゆだねられ,裁判所による介入は否定されることになる。

第1説が直接適用説、第2説が間接適用説ですね。両者の異同については、平成19年度の第1問でも出題されていて、そちらですでに解説済みなので、詳しくはそちらを読んでください。ここでは簡単に正誤を見ていきます。
まず選択肢1ですが、

  • 1  第1説は,第2説に比べて,基本的人権は国家権力に対して国民の権利及び自由を守るものであるとする伝統的な考え方により適合する。

「伝統的な考え方」、つまり、憲法は国が相手であって私人が相手じゃないという考え方でいくなら、憲法の人権規定を私人間に直接適用するということにはなりえませんから、第1説=直接適用説がその考え方に適合するわけがありません。なのでこれは間違いです。
次に、選択肢2ですが、

  • 2  「各種の社会的権力が巨大化した現代社会においては,憲法の定立する法原則が,社会生活のあらゆる領域において全面的に尊重され,実現されるべきである。」とする考え方は,第1説よりも第2説に適合する。

「社会生活のあらゆる領域」ということは、私人間についても、ということです。そこで憲法が「全面的に尊重され,実現される」ためには、私人間にも憲法が直接適用されるべきでしょう。つまりこれは第1説=直接適用説を支持する考え方ですね。だから第2説=間接適用説には適合しません。なので間違いです。
選択肢3はどうでしょう。

  • 3  第1説から第2説に対して,純然たる事実行為による人権侵害に対する憲法による救済が困難になる可能性があるとの批判が可能である。

民法90条は、公序良俗に反する事項を目的とする「法律行為」を無効とする規定ですので、「純然たる事実行為」には適用されません。そのため、直接には民法90条を適用し、その判断において憲法の人権保障の考え方を読み込んでいく間接適用説だと、「純然たる事実行為」に対しては間接適用もできないわけで、「憲法による救済が困難になる」ということが言えるでしょう。なので、これは第2説=間接適用説に対する批判として妥当です。なのでこれは正解です。
ということは、あとの2つは間違いのはずですが、一応確認していきましょう。まず選択肢4ですが、

  • 4  第1説から第2説に対して,私的自治の原則は市民社会の基本原則として妥当し,当事者の合意,契約の自由は原則として最大限に尊重されるべきであるとの批判が可能である。

「私的自治の原則」というのは、私人間の契約とかについては憲法がいちいちごちゃごちゃ言うな、ということです。さて、第1説と第2説だと、憲法がごちゃごちゃ口出しするぞ!と言っているのはもちろん直接適用説である第1説ですから、第2説=間接適用説に対する批判だと言っている選択肢4は間違いですね。
さて最後の選択肢5です。

  • 5  第2説による場合,私人間の人権対立の調整は,専ら立法にゆだねられ,裁判所による介入は否定されることになる。

間接適用説は、裁判所としては、直接には民法を適用しようぜ、そしてその際の判断において憲法の規定を重視しようぜ、という立場です。間接適用説でも、裁判所は私人間の人権侵害に口出しするんです。直接/間接の区別は、口出しのやり方の違いでしかないのであって、「裁判所による介入」自体が「否定され」ているわけではありません。なのでこれも間違いです。