外国人登録原票・登録事項確認制度訴訟判例


主文

本件上告を棄却する。


理由


一 弁護人武村二三夫ほか5名の上告趣意のうち、憲法13条、14条違反をいう点について

憲法13条により個人の意思に反してみだりにプライバシーに属する情報の開示を公権力により強制されることはないという利益が尊重されるべきであるとしても、右のような利益ないし自由も無制限なものではなく、公共の福祉のために制限を受けることは、憲法一三条の文言から明らかである。
外国人に対し外国人登録原票に登録した事項の確認の申請を義務付ける制度(以下「登録事項確認制度」という。)を定めた平成4年法律第66号による改正前の外国人登録法8条1項1号及び昭和62年法律第102号による改正前の外国人登録法11条1項の各規定は、本邦に在留する外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国入の公正な管理に資するという行政目的を達成するため、外国人登録原票の登録事項の正確性を維持、確保する必要から設けられたものであって、その立法目的には十分な合理性があり、かつ、その必要性も肯定することができる。そして、右法条により確認を求められる事項は、職業、勤務所等の情報を含むものであるが、いずれも人の人格、思想、信条、良心等の内心に関わる情報とはいえず、同制度は、申請者に過度の負担を強いるものではなく、一般的に許容される限度を超えない相当なものであると認められる。
右のような立法目的の合理性、制度の必要性、相当性が認められる登録事項確認制度は、公共の福祉の要請に基づくものであって、同制度を定めた前記各規定は、憲法13条に違反しない。
また、登録事項確認制度は、在留外国人に対し日本人とは異なった取扱いをするものであるが、右のような目的、必要性、相当性が認められ、戸籍制度のない外国人については、日本人とは社会的事実関係上の相違があって、その取扱いに差異を生じることには合理的根拠があり、登録事項確認制度を定めた前記各規定は、憲法14条に違反するものでもない。
以上のように解すべきことは、当裁判所の判例最高裁昭和25年(あ)第586号同28年5月6日大法廷判決・刑集7巻5号932頁、最高裁昭和26年(あ)第3911号同30年12月14日大法廷判決・刑集9巻13号2756頁、最高裁昭和29年(あ)第2777号同31年12月26日大法廷判決・刑集10巻12号1769頁、最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁)の趣旨に徴して明らかである(なお、最高裁昭和34年(あ)第774号同年7月24日第二小法廷判決・刑集13巻8号1212頁、最高裁昭和54年(あ)第112号同56年11月26日第一小法廷判決・刑集35巻8号896頁、最高裁平成2年(あ)第848号同7年12月15日第三小法廷判決・刑集49巻10号842頁参照)。


二 同弁護人らの上告趣意のうち、憲法31条違反をいう点について

所論のうち、前記外国人登録法11条1項違反の罰則規定である前記外国人登録法18条1項1号につき罪刑法定主義違反をいう点については、右罰則規定は過失犯をも処罰する趣旨であると解した原判断は、正当であり(最高裁昭和38年(あ)第2850号同39年3月31日第三小法廷決定・裁判集刑事150号931頁参照)、また、同規定につき罪刑の不均衡、重罰性をいう点については、登録事項確認制度が必要かつ合理的な制度であると認められる以上、同規定がその実効性を担保するための制裁として刑事罰を採用し、所定の刑を設けたことが、立法府の合理的裁量の範囲を逸脱するものとはいえないとした原判断は、正当であって(最高裁昭和23年(れ)第1033号同年12月15日大法廷判決・刑集2巻13号1783頁、前記最高裁昭和34年7月24日第二小法廷判決、最高裁昭和44年(あ)第2386号同45年6月5日第二小法廷判決・裁判集刑事176号499頁参照)、右罰則規定について憲法31条違反をいう所論は、いずれも前提を欠くものである。


三 その余の上告趣意について

所論のうち、登録事項確認制度を被告人に対して適用することにつき違憲憲法13条、14条、31条違反)をいう点については、すべての在留外国人を対象として設けられた同制度には、前記のような目的、必要性、相当性が認められるのであって、所論のいう在日朝鮮人をはじめとする長期在留外国人につき、その歴史的事情、地域定着性等を考慮しても、同制度を被告人に対して他の在留外国人と区別することなく適用することが違憲となるものでないことは、当裁判所の判例(前記最高裁昭和28年5月6日、同30年12月14日、同31年12月26日各大法廷判決)の趣旨に徴して明らかである。
その余は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
よって、刑訴法408条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
  平成九年一一月一七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   井   正   雄
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    井   嶋   一   友
            裁判官    大   出   峻   郎