憲法:外国人の人権の肯定説/否定説  司法書士試験過去問解説(平成21年度・憲法・第1問)




平成21年度司法書士試験(憲法)より。設問全体については、憲法:外国人の人権

教授: 外国人が憲法第3章で規定された基本的人権の保障の対象となるかどうかについては,否定説と肯定説とがありますね。これら二つの見解について,どのように考えますか。
学生: 否定説は,憲法は国民に対する国権発動の基準を示すものであり,憲法第3章の標題も「国民の権利及び義務」となっていることを理由としますが,私は,肯定説が妥当と考えます。なぜなら,( (1) )からです。
教授: 肯定説の根拠はそのとおりです(以下略)


対話になっていますが、訊かれているのは、単純にいえば、外国人の人権保障を肯定する立場がどんな根拠に基づいているか、ということです。
これは、憲法が先か人権が先かという重要なポイントにかかわる問題です。もし憲法が保障しているから、その限りで人権が保障されるべきものなのだとしたら、「日本国憲法」のなかで人権保障について定めた3章が「国民の権利及び義務」となっていて、「国民」というのは日本国民である以上、外国人については憲法で人権が保障されているわけではないというふうに考えられます。
他方、憲法や国家に先行して、人権という大切なもの、保障すべきものが存在し、それ自体として保障すべきものであるがゆえに憲法が人権を保障していると考えるのであれば、人権の保障が誰に及ぶかは、憲法にどう書いてあるかとは関係なく人権というものそれ自体の性質によって決まるはずです。そして人権というのは、その主体が人間であるということによって有する権利なわけですから、その保障は自国民なのか外国人なのかとは関係なく及ぶはずだということになるでしょう。この発想が、肯定説の根拠になります。
なので、正解は選択肢イです(設問の全体は憲法:外国人の人権)。

  •   憲法は,前国家的な人間の権利を保障するという思想ないし自然権思想に基づいて人権の規定を設け,国際協調主義を採用している



憲法 第四版
人権が前国家的・前憲法的な性格を有するものであり、また、憲法が国際主義の立場から条約および確立された国際法規の遵守を定め(98条)、かつ、国際人権規約等にみられるように人権の国際化の傾向が顕著にみられるようになったことを考慮するならば、外国人にも、権利の性質上適用可能な人権規定は、すべて及ぶと考えるのが妥当である。通説および判例も、そう解する。



憲法〈1〉
否定説は、憲法第三章が「国民の権利及び義務」と題している点を重視し、憲法第三章が規定する人権は、日本国民にのみ保障されるものと解し、外国人に対しては、憲法がある事項について国民に与えている地位を外国人にも与えるのが政治道義上妥当とする場合が少なくないとする見解である。否定説によれば、外国人に人権を保障するか否かは立法政策の問題となり、人権を保障しなくても違憲の問題を生ずることはないことになる。今日否定説を支持する学説は少ない。(中略)
これに対して肯定説は、日本国憲法が、前国家的な人間の権利を保障するという思想ないし自然権思想に基づいて人権の規定を設けていること、および憲法の国際協調主義を根拠にして、外国人にも一定の範囲内で人権の保障を認める見解である。



野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利 『憲法I 第4版』 218-219頁

憲法
外国人が憲法第3章の「国民の権利・義務」の主体になりうるかどうか、さらにどのような権利が保障されるべきかという問題は、とりわけ国際化時代における重要な論点である。憲法制定過程では、もともと権利の主体がpeopleとなっていた13条・14条等の条項でこれが国民と訳された経緯があり、また、外国人も当然に自然権的な人権の主体であること、国際人権諸条約の批准により日本が外国人にも人権を保障する国際的な義務を負っていることなどからも、外国人の人権主体性は広く認められる必要がある。
外国人を憲法第3章の権利主体として認めるか否かという論点について、旧来は、憲法が国民と明記する点を重視する否定説が有力であったが、今日では判例・通説は肯定説となった。



憲法 (新法学ライブラリ)
日本国憲法は第3章で「国民の権利」について定める。いま,日本に定住している人をも含めて日本国籍を有しない人を「外国人」と呼ぶと,憲法第3章で保障されるさまざまな権利は外国人にも認められるであろうか(中略)。外国人であるからという理由で,令状なしで逮捕したり拷問にかけたりしても良いとは考えにくい。



長谷部恭男 『憲法 第4版』 123-124頁

憲法
憲法第3章のタイトルに「国民の権利及び義務」とあることから,ここでいう「国民」を日本国籍取得者と解して,憲法上の権利は,外国人には保障されないとする説(否定説または消極説)もある。もっとも,立法政策として外国人を可能な限り国民に準じて取り扱うことが憲法の精神に適合するとする。
これに対して,憲法上の権利が自然権思想を背景とする前国家的な権利であること,また現行憲法前文および98条2項の採る国際協調主義の立場などから外国人にも一定の憲法上の権利は保障されると解する説(肯定説または積極説)が通説・判例である。



渋谷秀樹 『憲法』 109-110頁