憲法:外国人の地方参政権 司法書士試験過去問解説(平成21年度・憲法・第1問)
平成21年度司法書士試験(憲法)より。設問全体については、憲法:外国人の人権。
教授: (略)憲法上,我が国に在留する外国人に地方公共団体の参政権が保障されているかについても議論がありますが,あなたはどのように考えますか。
学生: 私は,( (5) )と考えます。この点についても判例は同様の立場をとっています。
要するに、外国人の地方参政権の憲法上の保障について、判例の立場を問うているわけです。ここで判例というのは、金正圭訴訟の判例です。
さて、まず、現在の法律では、外国人の地方参政権は認められていません。地方自治法では
公職選挙法では
というように、地方参政権をもつには「日本国民」であることが条件になっているわけです。法律上はそうなのですが、この法律が、憲法に照らしてみた場合にどうなのか、というのが問題になってきます。
法律を作るのは国(国会)ですが、国に対する憲法のあり方は、論理的に考えて次の3つの場合があります。第一に、「しなければならない」と要請すること、第二に、「してはならない」と禁止すること、第三に、「してもしなくてもどっちでもいい」と国に任せること、です。
外国人の地方参政権についていえば、外国人に地方参政権を「与えなければならない」、「与えてはならない」、「与えなくてもよいが与えてもよい」の3つの可能性があるわけです。順番に、要請説、禁止説、許容説といいます。
現在の法律は与えていないわけですから、もし要請説が正しければ、そのような法律は違憲だということになります。もし禁止説が正しいならば、外国人に地方参政権を与える立法が違憲だということになります。もし許容説が正しいならば、現在の法律も地方参政権を与える立法も合憲だということになります。
では憲法にはなんと書いてあるかというと、
というふうに、「国民」と「住民」という言葉の使い分けがされています。もし93条2項の「住民」に外国人も含まれるのだとしたら、憲法が外国人の地方参政権を保障し、国に要請していることになりますから、現在の法律はその要請に従っていないことになり、違憲です。
この点について判例は、
[憲法93条2項が、]我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない
として、要請説を斥けています。では禁止説なのかというと、
我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。
と、禁止説をも斥けています。つまり判例は、憲法は外国人の地方参政権について要請も禁止もしておらず、もし法律をつくって与えるなら別にそれも許容するよ、と許容説の立場に立っているわけです。
というわけで、設問に対する答えとしては(選択肢の全体については憲法:外国人の人権)、要請説を否定した
が正解です。
参政権は、国民が自己の属する国の政治に参加する権利であり、その性質上、当該国家の国民にのみ認められる権利である。したがって、狭義の参政権(選挙権・被選挙権)は外国人には及ばない(公職選挙法9条・10条、地方自治法18条参照)。しかし、地方自治体、とくに市町村という住民の生活に最も密着した地方自治体のレベルにおける選挙権は、永住資格を有する定住外国人に認めることもできる、と解すべきであろう。判例も、定住外国人に法律で選挙権を付与することは憲法上禁止されていないとする(略)。
地方公共団体レベルの選挙権については、選挙権の保障が憲法上禁止されているとする禁止説、選挙権の保障が憲法上要請されており、外国人を排除するのは違憲とする要請説、外国人に選挙権を保障するか否かを立法政策に委ねているとする許容説に分類されている(略)。禁止説は、地方公共団体レベルの選挙権も国政レベルの選挙権と同様に国民主権の原理に基づくものであり、憲法93条2項の「住民」は、憲法15条1項の日本「国民」を前提にしていることを理由としてあげている。しかしながら、外交、国防、幣制などを担当する国政と住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務を担当する地方公共団体の政治・行政とでは、国民主権の原理とのかかわりの程度に差異があることを考えると、地方公共団体レベルの選挙権を一定の居住要件の下で外国人に認めることは立法政策に委ねられているものと解される。最高裁も(略)許容説の立場に立っている(略)。
判例は(略)(c)[在日韓国人の地方選挙権・被選挙権を求めるキム(金正圭)訴訟]の上告審判決である1995年2月28日の最高裁判決(略)では、立法政策により定住外国人に地方選挙権を認めることは憲法上禁止されていないという判断(いわゆる許容説の立場)をはじめて示した。この判決は、(i)憲法15条1項は、権利の性質上日本国民のみをその対象として日本国に在留する外国人には及ばない、(ii)憲法93条の「住民」についても「地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり」、日本国に在留する外国人に対して選挙権を保障したものと解することはできない、(ii)しかしながら、第8章の地方自治の制度の趣旨からすれば、在留外国人のうちでも永住者等で居住区域と特段に密接な関係をもつに至ったと認められる者については、その意思を公共的事務処理に反映させるべく地方公共団体の長・議員等の選挙権を付与することは憲法上禁じられていない、と結論した(略)。
1995年2月28日に下した判決で,最高裁第三小法廷は,憲法93条2項にいう「住民」は,地方公共団体の区域に住所を有する日本国民を意味すると解するべきであり,同規定が定住外国人に対して,地方公共団体の長や議員の選挙権を保障したものとはいえないとした。しかし,同判決は,憲法の地方自治に関する規定は, 「住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務はその地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする」ものであるとした上で,日本に「在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて,法律をもって地方公共団体の長,その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずること」は憲法上禁止されてはいないとした(略)。
長谷部恭男 『憲法 第4版』 460頁
地方政治については,憲法93条2項にいう「住民」は国民を前提とした概念であることを前提に,憲法は法律による選挙権の付与を禁止すると解する禁止説と立法政策に委ねていると解する許容説に分かれていた。最高裁は,「我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて」法律で選挙権を付与することは憲法は禁止していないとして,許容説をとった。
渋谷秀樹 『憲法』 116頁