留学生と面談

16時半から、M2のモンゴル人留学生と、修論について面談(別に指導しているとか副査だとかいうわけではないが)。一言でいうと、駄目な論文を先行研究として、その真似をしようとして無理が祟ったという感じの状態。帰無仮説とか有意水準といった言葉を聞いたことがないにもかかわらず、カイ2乗検定を使いたい!と無謀なことに挑戦して当然のように停滞していた。なので、まず身の丈にあったことをしろ(自分の良く知らないことを論文に書くな)、と言いつつ、すでに作業済みのところから、「○○分析」なんかしなくても面白い発見になりそうなところを見つけ出してあげた。
テーマは、テレビCMの日蒙比較。ある1日を決めて、日本とモンゴルそれぞれのCMを全部録画してカウントするという方法。クロス表なんかつくらなくても、少なくとも日本人にとっての発見はたくさんある。まず、日本の場合延べ300本にのぼるのに対して、モンゴルは100本と、3分の1だ。「これはどうして?」ときいてみると、モンゴルでは午前中とか日中にはCMが流れず、夕方以降だけだそうだ。これ自体が、ほとんどの日本人は知らないであろう発見だ。
それから、日本だと、食品や化粧品や電気製品など、個々の商品のCMが多いのに対して、モンゴルだとそういうのはほぼ皆無で、大半はスーパーやデパートのセールの宣伝や、あとは携帯電話のCMなど、サービスと分類されうるようなものなのだそうだ。これも面白い。
あと、日本の場合、CMの主人公の性別が、やや女性が多いくらいであるのに対して、モンゴルだと男性が女性の5倍にのぼる。これについても、学生自身の印象をきいてみると、「男性のほうが説得力がありそうな気がする」そうな。もちろんこれは、上で触れた広告対象の種類に密接にかかわっている感じ方だろう。
とかとか、このように、単純集計をぼけーっと眺めているだけで十分面白い対照性が見えてくる。にもかかわらず、面談前には、これらの点は全然気づいてすらいなかった。先行研究がカイ2乗検定をやっているから、自分もやらないと論文にならない、と自縛していたわけだ。
こういう自縛が、なぜかよくわからないが、(ここの?)学生には結構多い。方法論は、まず解くべき謎があって、その解決のために採用されるものだ、という意識が稀薄である。謎が謎として呈示され、それが自分の研究によって解決されるからこそ、書く方も読む方も楽しんで読めるというものであり、そういう意味で研究はやる方も読む方も「楽しい」ものなのだが、そのこともあまり知られていないのかもしれない。この、謎解きとしての楽しさ(読者を楽しませようという気持ち)についても、今日の面談では強調しておいた。
あと、留学生は、日本についての知識を欠きつつ、不慣れな日本語で書かないといけないというハンディキャップを確かに負っているのだが、今日の学生がそうであるように、自国の文化については、特に何もしなくても、日本人研究者よりもはるかに多くのことを知っているわけで、そのメリットは存分に使うべきだろう。自分にとっては書くまでもない当たり前のことが、日本人読者にとってはすごく重要な情報になることが、多々ありうるのだから。
指導学生のいない気楽な立場で、アドヴァイスと称して適当なことを言いながら、学生が調べたことや感じたり考えたりしたことを聞かせてもらうのは大変楽しい。なのでもうしばらく、この気楽な愉しみを続けたいと思う今日この頃。