憲法:議員定数不均衡と参議院の特殊性  司法書士試験過去問解説(平成21年度・憲法・第2問)




平成21年度司法書士試験(憲法)より。判例の趣旨との合不合を問うもの。設問の全体は、憲法:公務員の選挙

  •   参議院地方選出議員についての選挙の仕組みには,事実上都道府県代表的な意義又は機能を有する要素が加味されており,このような選挙制度の仕組みの下では,選挙区間における選挙人の投票の価値の平等は,人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較してより強く保障されなければならない。


まず、国権の最高機関、国の唯一の立法機関として、国会というものがあります。

  • 41条  国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。


そしてもちろん、日本の国会は衆議院参議院でできています。


そしてもちろん、国会議員は選挙で選ばれた人がなるものです。当選して国会議員になった人は、北海道から出ようが沖縄から出ようが、全国民の代表です。

  • 43条1項  両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。


国会議員には任期があって、衆議院は4年、参議院は6年です。特に参議院は、3年ごとに半数改選です。このことも憲法で決められています。

  • 45条  衆議院議員の任期は、4年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
  • 46条  参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選する。


この国会議員を何人にするかは、法律で決めます。憲法では決まっていません。法律は国会が決めるものなので(41条)、議員定数の決定には、国会による裁量の余地があるということになります。ここ大事です。

  • 43条2項  両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。


国会議員は選挙で決まりますが、この、選挙を通じて国会議員を決める権利は、日本国民固有のものです。

  • 15条1項  公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。


ではどのような選挙でやるかというと、成年による普通選挙でなければなりません。未成年は参加できませんが、成年なら誰でも参加できないといけません。これは憲法が要請していることです。

  • 15条3項  公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。


他方で、選挙権と被選挙権を実際に誰に与えるのかは、これまた法律で決めるものとしています。ここにも国会の裁量の余地があります。もちろん、次の但書にあるように、差別は禁止されています。差別禁止のもとでの国会の裁量です。

  • 44条  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。


議員定数や、選挙への参加資格に加えて、実際の選挙のやり方についても法律で決めます。つまり国会の裁量の余地があります。

  • 47条  選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。


他にもいろいろとありますが、とりあえず今回の設問に関してはこれくらいにしておきます。憲法の要請としては、国会は二院制にするけど、どちらの議員も成人日本国民の普通選挙で選べよ、もちろん参政権の差別はいかんぞ、ということになります。他方、国会が法律をつくることで決められる裁量の余地も結構あります。もちろん、国会の裁量よりも憲法の要請が上ですから、その法律や、その法律に基づいた選挙の効果それ自体が、違憲審査の対象になります。
その際、憲法14条1項の一般的な「法の下の平等」規定が、当然この参政権の平等に対しても適用されることになります。そして、これがずっと問題になり続けてきたのが、今回の設問が主題化している議員定数不均衡問題なわけです。

  • 14条1項  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。


ここから、参議院議員定数の話にしぼっていきましょう。定数も含め、国会議員の選挙制度それ自体のあり方は、国会の裁量によって法律で決められます。その法律が公職選挙法です。参議院の定数は4条2項で定められています。

  • 4条2項  参議院議員の定数は242人とし、そのうち、96人を比例代表選出議員、146人を選挙区選出議員とする。

比例代表の96人は全国区です。146人を選ぶ選挙区選挙は、都道府県を各選挙区とします。まず、

  • 14条1項  参議院(選挙区選出)議員の選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数は、別表第3で定める。

とあって、別表第3をみると、都道府県ごとに、最小で2人、最大で10人の定員が、偶数人ずつ割り当てられています。分かりやすく表にするとこうなります。選挙区ごとに、定数の半数が3年ごとに改選されます。

定数 区数 選挙区
10   1  
東京都

6   5  
埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、大阪府

4   12  
北海道、宮城県福島県茨城県新潟県、長野県、岐阜県静岡県京都府兵庫県広島県、福岡県

2   29  
青森県岩手県秋田県山形県、栃木県、群馬県富山県、石川県、福井県山梨県三重県滋賀県奈良県和歌山県鳥取県島根県岡山県山口県徳島県香川県愛媛県高知県佐賀県長崎県熊本県大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

参議院の定数は、昭和22年(1947年)の参議院議員選挙法、それを引き継いだ昭和25年(1950年)の公職選挙法で、全国から選出される100人と、都道府県ごとに選出される150人の合計250人としてスタートしました。その後、昭和46年(1971年)に、沖縄復帰に伴って都道府県選挙区の方の定員が2人増え、全国100人と地方152人の252人になります。その後まただいぶ間があって、平成12年(2000年)に全国から4人、地方から6人の合計10人定数が削減されたことで、全国96人、地方146人の合計242人になって現在に至っています。


さて、上の表を見ると、議員定数の振り分けとしては、10人区、6人区、4人区、2人区の4種類しかありません。それに対して、各都道府県の選挙人人口は当然ながら、それぞれ異なっています(47種類あるということです)。ということは、何人の選挙人で何人の議員を選ぶか、もっとざっくりいうと、何人がかりで何人国会に送り込むかが、都道府県によって異なります(他方、各都道府県の内部では同じです)。
これは、もっというと、どこの選挙区かによって、議員一人あたりの選挙人数が異なるということであり、同じことですが、ひっくり返していうと、選挙人一人あたりで選ばれる議員の数(数字としてはものすごく小さくなるでしょうが)が異なるということです。これが、一票の重みとか、投票価値と呼ばれるもので、それが選挙区ごとに異なることを、投票価値の較差があるといいます。
特に、議員一人あたりの選挙人数が一番少ないところ(選挙人一人あたりの投票価値が一番大きいところ)と、一番多いところ(一番小さいところ)を比較したものを最大較差といいます。平成19年(2007年)の参議院議員選挙では、この最大較差は1対4.86でした(参照:平成21年最高裁判決)。投票価値の較差でいうと、4.86対1になります。
このように、選挙区によって投票価値が大きく異なることは、上述した参政権の平等に反しないのでしょうか。


判例は、まず、憲法14条1項が、投票価値の平等をも保障しているという立場に立っています。これは、昭和47年(1972年)の衆議院選挙(こちらも選挙区制ですね)について、最大較差が1対4.99となっていたのに対して、違憲の判決を下した際の判断が最初です(昭和51年最高裁判決)。

憲法14条1項に定める法の下の平等は、選挙権に関しては、国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等化を志向するものであり、右15条1項等の各規定の文言上は単に選挙人資格における差別の禁止が定められているにすぎないけれども、単にそれだけにとどまらず、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところであると解するのが、相当である。

そしてこの判断は、昭和52年(1977年)の参議院選挙についての昭和58年最高裁判決でも踏襲されています。

この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。

さて、ところが、このときの最大較差は1対5.26で、上の違憲とされた昭和47年衆議院選挙の1対4.99よりも大きかったにもかかわらず、最高裁は昭和52年参議院選挙については合憲と判断しています。なぜでしょうか。
ここで効いてくるのが、上述の、国会の裁量権憲法43条2項、47条)です。


昭和58年最高裁判決は、投票価値の平等は「唯一、絶対の基準」ではなく、「国会の極めて広い裁量」によって「投票価値の平等が損なわれ」ても「やむをえない」と判断しています。

憲法は(略)どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の極めて広い裁量に委ねているのである。それゆえ、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をもしんしやくして、その裁量により衆議院議員及び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決定することができるのであつて、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認しうるものである限り、それによつて右の投票価値の平等が損なわれることとなつても、やむをえないものと解すべきである。

しかし、この判断は、衆議院選挙の定数不均衡に対する昭和51年の判決を引き継いだものにすぎません。にもかかわらず、1対4.99の昭和47年衆議院選挙は違憲、それより大きい1対5.26の昭和52年参議院選挙は合憲とされました。これはどういうことなのでしょうか。
そこで効いてくるのが、参議院の特殊性です。


昭和58年最高裁判決では、公職選挙法(つまり国会の裁量)が、参議院議員について、衆議院議員とは異なる選出方法を用いていることを、憲法が二院制を定めていることに対応して、「独特の要素を持たせようとする意図」が込められていると解釈します。

公職選挙法参議院議員の選挙の仕組みについて右のような定めをした趣旨、目的については、結局、憲法が国会の構成について衆議院参議院の二院制を採用し、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているところから、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあつても、参議院議員については、衆議院議員とはその選出方法を異ならせることによつてその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に(略)

そしてそれをさらに、職能代表/都道府県代表にわけて、全国区と地方区がそれぞれの機能を担うというふうに解釈します。

参議院議員を全国選出議員と地方選出議員とに分かち、前者については、全国を一選挙区として選挙させ特別の職能的知識経験を有する者の選出を容易にすることによつて、事実上ある程度職能代表的な色彩が反映されることを図り、また、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。

ここでようやく、選択肢文中の「都道府県代表的な意義又は機能を有する要素が加味」という話にたどりつきました。
さて、都道府県代表的な性格が必要だとしたら、もしかりに選挙人の数が非常に少ない県があったとしても、そのことをもって、そこから選出される議員の数を減らしてしまうのはよくないということになりそうです。逆にいうと、都道府県代表的な性格を保持するためには、議員の定数配分を選挙人人口に比例させるべきではなく、そのことによって投票価値に較差が出てもしょうがない、ということになりそうです。そして、最高裁の判断はそのとおりのものでした。

このように、公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組みが国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認しうるものである以上、その結果として、各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票の価値の平等がそれだけ損なわれることとなつたとしても、先に説示したとおり、これをもつて直ちに右の議員定数の配分の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。


そこでもう一度選択肢を見てみます。

  •   参議院地方選出議員についての選挙の仕組みには,事実上都道府県代表的な意義又は機能を有する要素が加味されており,このような選挙制度の仕組みの下では,選挙区間における選挙人の投票の価値の平等は,人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較してより強く保障されなければならない。

いまみてきたとおり、参議院議員都道府県代表的な性格というのは、投票価値の平等の要求に対して、「一定の譲歩、後退を免れない」という判断を導くものです。というか、「選挙区間における選挙人の投票の価値の平等」を実現するには、「人口比例主義」を採用せざるをえないのであって、これよりも「強く保障」するような制度はありえません。
なので、この選択肢は判例の立場として、というか、論理的に間違っています。


なお、平成19年(2007年)の参議院議員選挙についての平成21年最高裁判決では、田原睦夫裁判官の反対意見で、この都道府県代表的性格に対する異議が出ています。すなわち、憲法制定過程、参議院議員選挙法制定過程の議事録をみると、都道府県別の選挙区を設けるといっても、「地域代表ト云ウ言葉ヲ以テ致シテ居リマスル選挙ハ,実ハ地域代表デハナイ」、「地域代表と云ふ意味の思想は,是は採ることが出来ない」と明言されており、ではなんのための地方選挙区かというと、地方の人材を埋もれさせないようにするためだったというわけです。

参議院議員選挙法において設けられた地方選出議員は,決して都道府県の住民の利益を代表するものではなく,国会が広く地方の実情を把握し,また,有用な多種,多様な人材を参議院議員として確保するには,各地方の選挙区から選出する途を設けることが望ましい,と位置付けて設けられた制度であることが明らかである。

この指摘が今後どういう影響を与えるのかも気になるところです。



憲法 第四版
昭和52年7月の参議院議員選挙について、議員1人当たりの選挙人数の最大較差5.26(神奈川選挙区)対1(鳥取選挙区)、および、いわゆる逆転現象(選挙人の多い選挙区の議員定数が、選挙人の少ない選挙区の議員定数よりも少なくなっている現象)の合憲性が争われた。最高裁は、参議院の地方区(旧)の地域代表的性格という特殊性を重視し、かつ、立法府の裁量を広汎に認めて(すなわち、(a)投票価値の不平等が「到底看過することのできない」程度の著しい状態になり、(b)かつ、その不平等状態が「相当期間継続し」、是正措置を講じないことが国会の裁量的権限の許される限界を超えると判断される場合に、はじめて違憲になる、と解して)、合憲判決を下した。半数交代制(憲法46条)をとる以上、定数偶数配分とならざるを得ないので、全国をいくつかの選挙区に分ける場合には、人口比率を厳しく要求することはできないが、それ以外の参議院の特殊性を強調し、団藤裁判官反対意見の言うとおり、5.26対1という「異常な較差」になるまで「実に27年の長きにわたって放置されて来た」、「国会の怠慢ともいうべき単なる不作為をそのまま裁量権の行使に属するものと考えている」多数意見の考え方は、きわめて問題であり、学説上も批判が少なくない。



芦部信喜 『憲法 第四版』 139-140頁

憲法〈2〉
参議院選挙区選出議員定数配分の不均衡については、最大較差1対5.85を含む1986(昭和61)年7月の選挙当時の定数配分規定にいたるまで、参議院選挙区選挙の特徴(地方代表的性格、半数改選制、絶対数の限定など)をあげて、より広い立法裁量を認め、合憲の判断を繰り返してきた(略)。
比較的最近になって最高裁はようやく、最大較差1対6.59を含む1993(平成4)年選挙時の定数配分規定は違憲状態にあったということだけは認める判決を下した(略)。しかし、1994(平成6)年の定数是正後の1対5弱の較差、さらに1対5強の較差を含む議員定数について、反対意見もかなり多いが、依然合憲と判断している(略)。選挙権という基本的な権利の不平等につき、このような判定基準を採用することには、多くの批判がある。



野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利 『憲法II 第4版』 20頁

憲法
参議院については、1994年6月の公選法改正まで一度も定数是正されなかった結果、定数不均衡は拡大の一途をたどり議員1人当たりの有権者数の最大格差は1対6.70(1993年9月現在、最小は鳥取、最大は神奈川)に及んだ。このことは、神奈川県の選挙人の投票価値が鳥取県の選挙人と比べて約7分の1にすぎないことを意味しており、選挙権の平等という観点からはとてもみすごすことはできない。にもかかわらず最高裁は、1983年4月27日大法廷判決(略)で、1977年選挙当時の最大格差1対5.26の不均衡をも合憲と解した。その理由について、二院制下の現行選挙制度の合理性や偶数定数・半数改選制、さらには、参議院の地域代表的・職能代表的性格などの参議院の特殊性をあげ、参議院については衆議院に比して人口比例原則の譲歩を容認する論法を用いた。
ここでは、参議院選挙区(旧地方区)選出議員の地域代表的性格を安易に容認したほか、選挙制度の合理性から投票価値不平等を正当化したが、憲法の代表原理や二院制の趣旨(衆参両院の国民代表としての地位は憲法上同質であり、参議院の地域代表的性格を認めることは立法府の裁量事項ではない点)からして大きな疑義があるといえよう。また、参議院では人口比例原則の後退が前提であるという議論に対しては、人口比例を保てない制度ならば別の制度を考えるべき(略)という指摘こそ憲法原則の基本であるといえる。選挙制度に関する立法裁量はもともと権利の平等を最大限に保障するためにのみ行使されることを再認識すべきであろう。



憲法 (新法学ライブラリ)
参議院議員の地方選出議員(現在の選挙区選出議員)の定数配分について最高裁は地方選出議員の選挙の仕組みについて,事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味しても,選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾することにはならないため,投票価値の平等の要求は,衆議院の場合と比較して,一定の譲歩,後退を免れないし,また,参議院については,選挙区割や定数配分をより長期にわたって固定し,国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる仕組みをとることも立法政策として許されるとし, 1977年7月施行の参議院議員選挙当時の最大で1対5を超える較差についても,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等が生じていたとはいえないとした(略)。



長谷部恭男 『憲法 第4版』 183頁

憲法
参議院議員の地方区選出議員について,当初最高裁は,「選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせるような場合は格別,各選挙区に如何なる割合で議員数を配分するかは,立法府である国会の権限に属する『立法政策の問題』である」としていた。そして, 1976年に衆議院議員議員定数について違憲判決を出した後にも,半数改選による偶数配分制の下では,投票価値の平等の要求は,人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩,後退を免れないとしつつ,人口の異動が投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することのできないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ,それが相当期間継続して, このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが,国会の裁量的権限の限界を超えると判断される場合には違憲になるとしている。
この判決は,「事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって,これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない」とするが,都道府県の代表,すなわち特定地域の代表の機能と全国民の代表,すなわち全体の代表という性格を整合的に説明する論理は存在しない。国会議員が「全国民を代表する」と憲法が定める(43条1項)以上,参議院議員も,可能な限り1対1に近づけるべきである。その後, この基準に照らして定数配分規定自体を違憲とした例はないが,1対6.59の最大較差を違憲とした例がある。



渋谷秀樹 『憲法』 204頁