鈴木光司『リング』

リング (角川ホラー文庫)

リング (角川ホラー文庫)

日本での映画化って、たいていはがっかりするのだけど、こればっかりは映画化が紛れもない「善」をこの世にもたらしたと思う。逆に、映画を観てから本作を読んだ、おそらくほとんどの読者は、こっちでがっかりしただろう。
なんといっても、山村貞子の存在感が薄いよねー。それと、大学で非常勤講師をしている高山竜司の、いかにも頭の悪そうな小理屈(「生命の誕生はある種の意志による」とか)が、ちょっと見ていられないレベル。作者の頭の程度が推し量られる。
あと気になったのは、高山が、(少なくとも自称)レイプ魔だという設定。終盤で、いや童貞だ(と思われる)、という噴飯もののどうでもいい解釈が呈示されて、なんぞそれ感が最高潮に達するのだが、少なくとも主人公の浅川は、そこまでは高山が高校生のときに女子大学生をレイプしてそれを自慢しており、その趣味が現在も続いていると(高山の自慢を信じて)思っているわけだが、そういう人と友達づきあい・・・普通はできないよねえ。そういう設定を特に断りもなく入れてしまうところから察するに、作者はこの設定がさほど不自然ではないと思っているようだ。
呪いを解く方法については、いまや日本中で知らない人はいないだろうが、「ダビングして他人に見せる」である。作者はこれを、伝染病の蔓延と相似で捉えていて、実は呪いのビデオは、超能力者山村貞子が、天然痘患者に犯されて産んだ「子供」だという、なにそれ感満点の真相なのだが、正直なんのこっちゃである。
「ダビングして人に見せると呪いが解ける」というのでは、単に呪いが1人ずつ受け渡されていくだけであって、蔓延などしない。作者も気づいたのか、最後に浅川に、伝播する中でデマが飛び交い、「一週間の期限も短縮されるだろう」、「複数人に見せないといけないことになるだろう」とか、一所懸命に「蔓延」の話にしようとしているが、正直言って見苦しい。
天然痘の伝染能力を引き継いだはずの呪いのビデオにしては、感染力が弱すぎるのだ。貞子の超能力は凄まじく、ビデオを観た者に心理的な影響力を及ぼして心臓麻痺にしてしまうにとどまらず、なんと電話まで物理的に鳴らしてしまうのだから、観た人を操って「ダビングして人に見せてしまう」ようにすればすぐに蔓延する。なぜわざわざ呪いのビデオなどという蔓延しにくいものにしてしまったのか、理解に苦しむのである。