Mike Newell監督『Donnie Brasco』(邦題:フェイク)

FBIの潜入捜査官(Johnny Depp)と、うだつの上がらないマフィア(Al Pacino)の友情物語。
Al Pacinoの演技はたしかに素晴らしく、自分がリクルートした若手が実はFBIだということが判明したあと、上役から呼び出されて、家を出るまでのシーンは、哀愁抜群で最高ではある。30年間組織のためにヒラで働いて、その挙句が、信じていた若手に裏切られた上での、組織からの問責であり、もちろん殺されにいっているのだ。身につけているものを一つずつとって、引き出しに入れる。いったん閉めた引き出しを、少し開けたままにしておく。その行動が何を意味しているのかはつかみきれないが、しかしそこに、Pacinoの覚悟がこもっていることはひしひしと伝わってくる。
ただ、Al Pacinoが上手すぎて、Johnny Deppの方の不自然さが目立ってしまう。
潜入捜査モノである以上、バレるかバレないかのハラハラドキドキが各シーンの肝にならざるを得ないのだが、Deppの、特にFBIや家族にかける電話のシーンが、あまりにも不注意で緊張感がない。マフィアたちから見えるところで、公衆電話から連絡するとかあり得なくない?
緊張感が最大値をとるのは、日本料理屋で靴を脱ぐように言われて、靴に録音機を仕込んでいるDeppが困って「お前ら戦争に負けたくせに」とか無茶苦茶言い出して、そこでなぜか店員までもが「I'm afraid it's necessary!」(キリッ)と強情を張って、結局トイレで半殺しにされる前半のシーンだが、これについては、うーん、何といえばいいのか。
Depp側での、ほとんど家族と過ごせないがゆえの家庭崩壊の危機についても描かれているが、もうちょっとちゃんとした説明をするとか、FBIの方で家庭のケアをするという手当てはないものなのか。
といった設定とかプロットの変なところが気になって、ちょっと入り込めなかった。