ティコの膀胱は破裂していないのか?

 この前、「おしっこを我慢してWiiをもらおう」(Hold Your Wee for a Wii)という馬鹿な企画で人死にがあったのは記憶に新しい。心優しいねらーの方々が流した涙の量はこの大会の優勝者でも飲みきれないほどだという。

 「水の大飲み大会」は今月12日、サクラメントの地元ラジオ局KDNDが主催。亡くなったジェニファー・ストレンジさん(28)を含め約20人が参加し、15分ごとに手渡される水を、トイレに行かずにどれだけ大量に飲めるかを競った。優勝賞品は任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」で、ストレンジさんは3人の子どものために、優勝を目指していたという。
 ストレンジさんは優勝できなかった。大会終了後に職場に戻った際に、頭痛を訴えていたという。その後、帰宅した自宅で亡くなっているのが見つかった。
 調べでは、ストレンジさんは3クオート(約2.8リットル)の水を飲んでいた模様。
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200701180028.html

 さてこのニュースについて、数日してから、そういえばあの偉大なる天文学者ティコ・ブラーエ大先生もおしっこを我慢しすぎて膀胱が破裂して死んだのではなかったかと思い出した。そこで詳しい話をGoogle先生に聞いてみたところ、それは違うというのだ。
 ここに「ティコ・ブラーエの本当の死因」という文書がある。ここから引用しよう。
 まず、通説から。

ボヘミヤ公ローゼンベルグ伯爵家での晩餐会に出席した11日後でした。ティコは一時間に及ぶ晩餐の間自然の欲求(トイレへ行きたくなること)に対して余りにも礼儀正し(上品)過ぎました。そして遂に膀胱が破裂し、やがて死に至ったのです。

これに対して、やはり超有名な天文学者であるケプラー先生の証言がある。ケプラー先生は

ティコ・ブラーエは自分の膀胱を空にするのを望まず、家に帰るまで我慢しようとした、けれども、それが出来なかったと記しています。
 眠れない5晩が過ぎて、彼は血尿を出し、ひどい痛みに襲われたのです。それからさらに不眠症になり、発熱し妄想状態になりました。10月24日数時間にわたって「俺は無駄に生きたのではない!」と
うわごとをいい続けた後、安らかに亡くなったと伝えています。

友人のイェッセン医師は葬儀のときに

発熱を伴う膀胱炎により血液が集中したので、(尿を出せない)尿閉塞と痛みを起こしたのです。これが軽い錯乱の原因です。

と述べたという。さらにドイツ人医師ウィティヒのノートには、

10月24日の朝9時から10時の間に「結石がティコの尿を出せなくし、膀胱破裂で亡くなった」

とあるそうな。これらが示しているのは、前立腺肥大ないし尿毒症に由来する泌尿器系の病気にかかっていた可能性だという。しかし当時すでに尿道カテーテルによる治療法が存在したはずだともいう。
 さて1901年にティコ・ブラーエの墓が掘り起こされたが、尿道結石は見つからなかったという。そしてこのとき、ひげが取り出された。これが1991年になってデンマークに戻り、検査の結果、高濃度の水銀が検出された。さらに1996年にスウェーデンの研究者が検査した結果、この水銀は経口摂取されたことまでわかった。つまり、

どうやら彼は亡くなる前日に多量の水銀を入れた薬を自分で調合し服用することによって自分自身の死を実行したらしいのです。

 これは泌尿器系の病気の治療法だという。結論としては、泌尿器系は悪かったが、破裂したのではなくて治そうとしたら中毒になったということのようだ。

追記

 こういうのの死因は特定がなかなか難しいということを立石くんが指摘してくれた(昔の人はみんな水銀中毒死?)。この件の詳細については以下の本に詳しいようだ。この本はケプラー悪者説をとっている模様。

ケプラー疑惑―ティコ・ブラーエの死の謎と盗まれた観測記録

ケプラー疑惑―ティコ・ブラーエの死の謎と盗まれた観測記録

『ケプラー疑惑―ティコ・ブラーエの死の謎と盗まれた観測記録』をamazonで買う!

ティコ・ブラーエの助手となったケプラーは、ティコの40年間にわたる精密な観測データを手に入れたかったが、ティコはそれを決してケプラーに渡さなかった。自らの理論の証明にどうしてもそのデータが必要だったケプラーは、再三、それを手に入れようと企てたがかなわず、ついに…。最新のPIXE(粒子線励起X染分析)技術は、ティコの毛髪中に含まれる水銀などの元素量の変化を、彼の死にいたる最後の74時間について明らかにしている。本書は、ティコの突然の死の謎を明らかにするとともに、彼の科学史上の役割を再評価している。