ロールズ「最小値最大化基準を採用すべきいくつかの理由」

  • John Rawls, 1974, “Some Reasons for the Maximin Criterion,” The American Economic Review 64, pp. 141-146

 多くの人が間違えているようなので(たとえば渡辺幹雄『ロールズ正義論再説―その問題と変遷の各論的考察』137頁以下)明確にしておかなければならないが、この論文で最小値最大化(マキシミン)基準といわれているのは、不確実性下の意思決定の規則としてのマキシミンではなくて、格差原理のことである(142頁の正義の二原理の定式化のところに明記してあるのに何で間違えるのかなあ)。この論文でロールズは、正義の二原理について、原初状態からの(マキシミンによる)合理的選択という理屈に依存しない形での正当化を試みたわけだ。以下、段落ごとの要約。

  • [1]最近、分配的衡平の基準としてマキシミンが経済学者の注目を浴びているよ。
  • [2]衡平の基準としてのマキシミンと、不確実性下の選択の規則としてのマキシミンは違うよ。本稿の目標は、後者から完全に独立した形で前者を採用すべき理由を示すことだよ。
  • [3]『正義の理論』では、マキシミンを契約論で擁護したよ。契約論ていうのは初期状況を公正に設定して、そこでの合意を論拠する議論だよ。
  • [4]公正な設定ていうのは、無知のヴェールをかけることだよ。
  • [5]合意の対象となるのは社会的正義の構想だよ。その適用対象は社会の基本構造だよ。
  • [6]合意の候補となる選択肢はいろいろあるだろうけど、ここは一発単純化して、選択肢を限定するよ。
  • [7]選択肢限定というのは、正義の二原理と、あと二つの候補を比較するだけにしとくってことだよ。正義の二原理っていうのは(1)みんな、他の人の自由の妨げにならない限り最大限の自由を享受する権利を持っていないといけないとした上で、(2)機会が平等なら、一番恵まれないの利益が最大化すると期待されるような不平等なら許す、っていう原理だよ。この最後のがマキシミンだよ。
  • [8]この正義の二原理と、期待効用最大化原理はどっちがいいかな。選ぶ基準は、公正な初期設定で何が契約者の利益であるかで決まるけど、その利益というのは他人と同じように尊重される権利だよ。この権利は自由が保障されていることで守られるよ。正義の二原理の(1)がこの自由を保障するよ。
  • [9]期待効用原理では、自由が制限される可能性があるから正義の二原理が選ばれるよ。
  • [10]それに契約者たちは、自由な目的追求だけでなくて、自由な目的変更ができることも利益だと思うよ。正義の二原理はこの種の自由も保障するからいいね。
  • [11]というわけで次の比較に移るよ。さっきの比較で、とりあえず自由は保障しないとどうしようもないことがわかったね。だから正義の二原理の(1)は外せないよ。今度の比較は、正義の二原理と、二原理の(2)のマキシミンのところを平均効用最大化に代えた原理とどっちがいいかだよ。
  • [12]やっぱり正義の二原理の方がいいよね。どうしてかというと、まず契約は一回きりで取り返しがつかないから、リスクを考えちゃうよね。その点、マキシミンにしとけばひとまず安全。これが一つ。
  • [13]もう一つ。マキシミンなら最も恵まれない人の状態だけ見ればいいけど、平均効用最大化だと、全員の効用を基数的に測定できないといかんよね。必要な情報量が多いということは、その分解釈に頼るようになって、そうすると相対的に恵まれた人が解釈件も強いからどこまでも不平等が進んじゃうよね。だからマキシミンの方がいいよね。
  • [14]正義が実現されているかどうかのわかりやすさという点でも、マキシミンの方に分があるよ。
  • [15]合意した契約は実際に守らないといけないという点でも、マキシミンが有利だよ。
  • [16]まず、恵まれない人の立場からいうと、たとえば余命1年の人がいて、その余命を半年にすれば、余命50年の人の余命が51年になるという場合、平均効用最大化に従うならそうしなければいけないということになるわけだけど、そんなもん従えるかってなもんだよね。反対にマキシミンだと恵まれた人が損をする可能性が出てくるけど、幸せなんて相対的なもんであって、人より恵まれているという状況に変わりはないんだから、契約に背くに足るほどの損失とはいえないよ。というわけで、マキシミンは平均効用最大化より従いやすい契約なんだ。
  • [17]以上、平均効用最大化よりマキシミンがいいよっていう理由をいくつか挙げてきたけど、どれも決定的とはいえないのが残念。でも、自由で平等な人々が何を望むかってことから直接マキシミンに達する道もあるよ。
  • [18]自由で平等な人々は、偶然的要因による不平等を何らかの原理で統制したいと思うものだよ。
  • [19]平等がいちばんいいと思いがちだけど、それよりみんなが得をする不平等の方がいいね。それをいいというのがマキシミンだよ。
  • [20]でもマキシミンが絶対とはいわないよ。他にもっといいのがあったら教えてね。