人文総合演習 第8回



今回の報告は、本書のテーマである米国での宗教事情の紹介から出発し、特に政治と宗教の関係という観点から、日本の状況について論じる、という形のものでした。
報告者の立場は明確です。「宗教活動に関しては自由だと思うが、政治に介入すべきではない」。そして、「もっと国が公共の福祉に反する危険のある宗教団体に対して取り締まりを強化してもよいのではないだろうか。」「このような宗教団体は解散を命じてもよいのではないだろうか。」報告の中での議論としては、この明確な(であるがゆえに反論の余地がおおいにある)立場を支える理屈がいまいち不明確で、そこはちょっと不満でした。
不明確になるのは、政治と宗教の関係、という問題設定が不明確だからです。たとえば上の引用にしても、「宗教が政治に介入する」という面と、「政治(特に行政権力)が宗教に介入する」という面の、二つが含まれていますが、この二つの問題を、それぞれどう考えればよいのか。また相互の関係はどうなっていて、どうあるべきなのか。
また「宗教が政治に介入する」という面だけに限って、それが、特定の宗教団体が支持している政党が存在してはならない、という意味だとしても(それが報告者の立場だったわけです)、「特定の宗教団体だけが支持している政党」なのか「特定の宗教団体の信者が(信者であるがゆえに)ほぼ全員支持している(が、信者以外にも支持者はいる)政党」なのか、によって、話は大きく変わってきます。
宗教団体に対する政治的規制の話にしても、「危険がある」とはどういうことで、それを誰が判断するのか、誰がどういう仕方でどの程度「規制」するのか、という点の明確化がない限り、そこで何が問われているのかということ自体を理解することができません。
他の人のコメントにも表れていますが、根本には、宗教とか盲信するようなやつらは怖いし信用できないし気持ち悪いし、近くにいたら不安だ、という感覚があるようです。そこにはおそらく多分に偏見の要素が入っているのでしょうけど、もちろん偏見をもって生きることは個人の自由であって、あえて匡そうとは思いません。私自身がそういう偏見から自由だとも言いません。むしろ、結構共感してます。
しかし、かりにそういった嫌悪の感覚が倫理的に重要なのだとしても、それは、それこそ政治的に行使できるリソースなわけです。宗教団体が強力にプッシュする政党が恐ろしければ、政治的なプロセスでそれを排除していくことができるはずです。なにせ、特定宗教の信者でないあなた方(私たち)は、日本のマジョリティなのですから。近所に信者がいて気持ち悪くてしょうがないというのであれば、交際を絶ったり、露骨に嫌な顔をしてやればいいでしょう。そういうことは簡単にできるのです。マジョリティなんですから。
このように、政治は私たちマジョリティの味方です。そして、だからこそ、政治(民主主義)に優越する水準で、憲法が信教の自由を保障しているのです。「えーマジ無神論?」「無神論が許されるのは小学生までだよねー」という世の中は、民主的に可能です。だからこそ、「なんかわけわかんない教義(笑)とか信仰(笑)しちゃってるおかしな人たち」が、憲法的に自由を保障される(つまり信仰の内容と、それに基づく活動に対して権力の介入を受けない)ことが、特別な信仰を持たない私たちにとっても重要なのです。
・・・あー、なんか説教くさい上に、最初の文脈から離れてしまってる気がするのでもうやめよう。
司会者は、結構うまくやっていたと思います。特に、打ち合わせのときに、これやってみて、と言っていた件をやってくれたときには、「うんうん、俺は見てるぞ」と思いました(なんのこっちゃw)。でもそろそろ、場の支配の仕方について、新しい技法がみてみたいなあ(←わがまま)。 
以下、出席者のコメント。

  • 今日のテーマは政治と宗教で、あまり「こうだ!!」とはっきり言えない点が多いので難しいと思いました。政教一致はよくないと感じるのは私が宗教にマイナスイメージを持っているからなのかもしれませんが、少なくとも日本の文化には合っていないような気がします。

  • 「宗教」について知識がなく、先入観をもってしまっていて政教の話題などは難しかった。

  • 今までは、カルト系の教団だけが悪いのだと頭ごなしに決めつけていましたが、レジュメを読んで考え直してみると、カルト教団だけではなく、盲信的な信仰心を持つ過激派の人々もかなり危ないという考え方に変わりました。

  • 日本人の私は宗教についてあまり考えたことがなかったため、考えるいい機会となった。宗教をここまで信仰できるアメリカ人をすごいと思った。

  • 宗教という難しい内容で、議論にあまり参加できなかったのが残念です。

  • 今日は先生がたくさん話してました。

  • 今まで全くといって言いほど興味のなかった宗教についての今回の議論は、正直難しかったのですが、アメリカや日本の宗教事情が分かってよかったです。

  • 司会の声が小さかったと思う。興味深いテーマで考えを言いやすかった。

  • 政教分離に関して。公明党などの政党を、日本国憲法第21条において、信教の自由が定められている以上、宗教団体が母体であるからといって「あるべきではない」と否定するべきではないと思う。宗教団体であるという理由によって政治活動を禁止するということは、信仰を理由として差別されないことを保障している信教の自由に反するのではないか。/宗教団体の解散等に関して。「公共の〜危険のある」宗教団体とはいいながらも、それが危険であると判断するのはいったいだれなのか? 判断する規準は何か? 破防法では公安調査庁、同長官の求めによって公安審査委員会が一定の規制措置を行うことができる(ブリタニカ百科事典より)ようだが、それは結社の自由を侵害することにはならないのか。/あくまでも、政治に関わることも団体をつくることにしても、個人の自由としか言えないのでは。あまりにも規制しすぎることはマイノリティに対するマジョリティからの差別なのではないか。

  • ○○くんには負けない。

  • 報告者の感想  発表は大変でした。もっと本についての議論がしたかったですが、止むを得ないですね。

  • 司会者の感想  力量不足を痛感しました。