T. M. Scanlon, Moral Dimensions: Permissibility, Meaning, Blame



Moral Dimensions: Permissibility, Meaning, Blame

  • T. M. Scanlon, Moral Dimensions: Permissibility, Meaning, Blame
    • 『道徳の諸次元: 許容可能性、意味、非難』(2008年に出た本のペーパーバック化)
       著者は、明晰かつ簡潔な文体で、現代の哲学論争の枠組み自体を再構成していく。本書で主題とするのは、行為の道徳的許容可能性である。ある行為が許容できるかできないかは、行為者がその行為をする理由によって決まる、と考える人がいるかもしれない。たとえば、戦術爆撃とテロのあいだには、かりに非戦闘員の死者が同数だったとしても、重大な道徳的差異があり、その差異は、それぞれの行為の行為者が、何を目的としてその行為に及んだのかによって決まるはずだ、と。しかし、著者の議論によれば、それは間違いだ。上の事例において、許容可能性が行為者の側の理由に依存すると考えてしまうのは、本来異なるはずの二つの道徳的評価を一緒にしてしまっているからだ。すなわち、行為の許容可能性の評価と、行為者の側での行為の選択方法の評価とは、本当は区別しなければならないのだ。
       著者はこの二つの評価形式を区別したうえで、それに基づいて、さらに、行為の許容可能性と、行為の意味とを区別する。行為の意味とは、行為者がその行為をなす意志が、他人に対して有する意義のことである。行為の意味は、行為者の側での行為の理由によって決まるが、行為の許容可能性はそうではない。著者の議論では、非難というのは、行為の許容可能性に対する反応ではなく、行為の意味に対する反応なのだ。以上の分析は、道徳的責任が成立するための条件について新しい見方を提供し、また非難の倫理学について重大な結論を導くことになる。