Vincent Brown, The Reaper's Garden: Death and Power in the World of Atlantic Slavery



The Reaper’s Garden: Death and Power in the World of Atlantic Slavery

  • Vincent Brown, The Reaper's Garden: Death and Power in the World of Atlantic Slavery
    • 『死神の園: 大西洋奴隷制世界における死と権力』(2009年に出た本のペーパーバック化)
       大西洋の奴隷制において、死はどのように観念されていたのか。著者はこの問いを、ジャマイカを舞台に考えていく。ジャマイカこそは、アメリカにおける大英帝国の膨大な利権の中枢であり、同時に恐るべき人災の中枢だった。ジャマイカはヨーロッパ人の墓場として知られていたが、それよりもむしろ、アフリカ人とその子孫の墓場であったのだ。
       本書は変動する世界についての説得的で啓発的な物語であり、著者はそこで、死が破壊であると同時に生成でもあったことを示していく。大英帝国の植民地奴隷制が頂点を極めた18世紀から、それが衰退する1830年代までのあいだに、死神は、ジャマイカの社会生活の中核的要素をつくりあげていった。所属と地位、未来への夢、過去の記念といった事柄だ。著者の調査は、不安を抱えた入植者の手紙を紐解き、通夜や弔辞や受肉儀式についての聴き取りを行い、墓所や棺の中を覗き込み、そうすることで奴隷制における人間の闘争の精神の中核を見出す。主人も奴隷も、占い師も呪い師も、反乱者も支配者も、誰もが、自らの望みを実現するために死者を召喚していた。この大西洋の西端に位置する激動の世界においては、「死の政治学」こそが、歴史の方向性を決定するのに重大な役割を果たしていたのだ。
       本書を読めば、大西洋世界の奴隷制において死こそが政治生活のあり方を決めていた事情その他について、深い理解を得られること請け合いである。