Olivier Wieviorka, M. B. DeBevoise (transl.), Normandy: The Landings to the Liberation of Paris



Normandy: The Landings to the Liberation of Paris

  • Olivier Wieviorka, M. B. DeBevoise (transl.), Normandy: The Landings to the Liberation of Paris,
    • 『ノルマンディ: パリ解放のための上陸作戦』(2008年に出た本のペーパーバック化)
       1944年6月6日の、ノルマンディ沿岸への連合軍の上陸は、第二次世界大戦の歴史を語る上で、伝説的な地位を占めてきた。ところが、そうやって過剰にロマンティックな位置づけを与えられたために、D-dayの全体像が見えにくくなってしまっている、というのがオリヴィエ・ヴィヴィオルカの議論だ。本書はバランスのとれた完全なノルマンディ像を描くことで、この大作戦の成功と失敗をともに明らかにしようとする。
       ヴィヴィオルカは上陸の様子を精確かつ劇的に描くが、彼の筆はそれにとどまらず、作戦計画段階での外交的背景や、連合軍内部の関係、ドイツ側の防衛体制、兵士たちの士気、経済と兵站、政治および軍事の指導者たちにも及び、さらに市民や兵士がこの戦闘をどのように体験したかも詳細に描き出す。意外にも、上陸作戦それ自体は、参謀本部が予想していたような殺戮の場にはならなかった。より大規模な戦闘は上陸後のノルマンディ争奪戦として起こった。この戦闘はボカージュと呼ばれる悪名高い生垣が障碍として立ちはだかる農地を舞台に行われ、多数の死者を出しただけでなく、生存者に対しても厳しい戦闘体験のゆえに深刻なダメージを与えることとなった。
       D-dayが素晴らしい戦果であることは確かだが、あくまでもそれは戦争であり、暴力と残虐に満ちたものだった。ヴィヴィオルカはそう記す。誤謬、逃亡、競争、心理的トラウマ、利己的な動機、掠奪、そして強姦。これらすべてが、この作戦には含まれている。本書は、決して連合軍の戦果を無化しようとするものではない。あくまでも公平な立場から、勝利の裏に隠された代償を明らかにし、ノルマンディの海岸に殺到した英国、米国、カナダの兵士たちを、半神などではなく、それぞれ一人の若者として描き出すのである。