Boethius, David R. Slavitt (transl.), The Consolation of Philosophy



The Consolation of Philosophy

  • Boethius, David R. Slavitt (transl.), The Consolation of Philosophy
    • 『哲学の慰め』(2008年に出た本のペーパーバック化)
       本書はボエティウスの『哲学の慰め』の新訳である。デイヴィッド・R・スラヴィットによる訳文は、優雅でありかつ読みやすく、この大傑作の哲学書の長年のファンにとっても、また今回はじめて読む人にとってもお勧めの、素晴らしい出来である。スラヴィットはラテン語の原文にある、韻文節と散文節が交互に登場する構造をそのまま残し、文学的探求と論理的探求のあいだのメニッポス的並行性が読み取れるように工夫している。散文節の訳文は生き生きとした対話形式で、原文の論争的な、時には相手をからかうような調子がよく出ている。また韻文節の訳文は、ボエティウスの詩が持つ美と力を見事に復元している。その結果、本書は翻訳技術論に対する大きな貢献ともなっている。
       『哲学の慰め』に詳しくない人でも、本書が死刑判決の下で書かれたという話は聞いたことがあるのではないだろうか。ボエティウス(480頃-524)は東ゴート王国テオドリック大王に仕えた執政官だったが、政治的パラノイアの時期にあって告発、逮捕され、裁判を受けぬまま2年後に処刑された。投獄され家族や友人と切り離された状況で書かれたこの書物は、現在でも、地上の存在の暫定性と、精神的なものの優越性についての、西洋で最も雄弁な省察であり続けている。韻文と散文を芸術的な仕方で組み合わせることで、スラヴィットは原文のもつエネルギーと情熱を見事に捉えた。またセス・レーラーによる、一般読者に向けた序論では、ボエティウスの生涯と功績を当時の文脈の中に位置づけつつ解説している。