Gordon J. Horwitz, Ghettostadt: Łódź and the Making of a Nazi City



Ghettostadt: Łódź and the Making of a Nazi City

  • Gordon J. Horwitz, Ghettostadt: Łódź and the Making of a Nazi City
    • 『ゲットーシュタット: ウッチとナチス都市の建設』(2008年に出た本のペーパーバック化)
       第三帝国の時代、ナチスドイツは前代未聞の大事業にとりくんだ。ポーランドの都市ウッチを、まったく別の都市につくりかえようとしたのだ。戦前のウッチは、ポーランド第二の人口を誇るユダヤ共同体だった。それを、魅惑のドイツ都市に変えてしまおうというのだ。近代的で、清潔で、整理された、都市計画と芸術のショーケースに。しかしこの事業の中心にあったのは、やはり前代未聞の次元での犯罪であった。すなわち、市内に住むユダヤ人をゲットーへと押し込み、搾取し、最終的には絶滅させようとしたのだ。
       本書は、ナチスの世界観の中でユダヤ人ゲットーがどのような位置を占めているのかを探求した、恐るべき書物である。ゲットーの生活をきわめて広い文脈の中で捉えつつ、ゲットーに囲い込まれたユダヤ共同体、それから、ゲットーの管理を担わされたドイツ人たち、そして、このかつてのポーランド都市に住む「普通の」住民たち、これら三者それぞれの視点と行動を描き出す手際は見事と言わざるをえない。著者であるゴードン・ホーウィッツは、都市内部でのやりとりや相互依存のパターンを明らかにする。その規模と詳細さは驚くほどだ。たとえば、ナチスは、暴力と欺瞞を際限なく用いつつ、ユダヤ人の制度的伝統、社会的区分、合理性の信奉、生存への希望を濫用して、最終的にはユダヤ人をこの都市から、そしてこの世界から根絶やしにしようとした。その様子が克明に描かれている。著者はその非凡な筆力で、ナチス占領下の東欧における最も重要なユダヤ人共同体を襲った破壊的な道徳的ディレンマに光をあてる。またそれと同時に、ホロコーストの登場と全盛期を用意したイデオロギー的支えと、文化的、経済的、社会的現実をも探求する。
       本書は、この「新しい」ドイツ都市の日常生活を、ウッチゲットーの内部と外部双方の観点から、明瞭に、力強く、そして悲惨に描き出す。これは、ホロコーストにいたるまでの事情をきわめて非凡な形で暴露した重要な研究である。