Rebecca M. Jordan-Young, Brain Storm: The Flaws in the Science of Sex Differences



Brain Storm: The Flaws in the Science of Sex Differences

  • Rebecca M. Jordan-Young, Brain Storm: The Flaws in the Science of Sex Differences
    • 『ブレインストーム: 性差の科学の欠陥』
       女性の脳と男性の脳には違いがある。その違いは、胎児のときに脳内をかけめぐるホルモンによって決まる。こういう話が、心理学の教科書、学術専門誌、そしてベストセラー本の中で、事実として教えられている。そして性的指向から性同一性まで、なぜ物理学者に女性が少ないのかといったことから、マイホームパパが少ないのかといったことまで、あらゆることが、この脳のハードウェアの違いによって説明されている。
       著者は、性差が脳のハードウェアの違いによって決められる、という説がどういう根拠で述べられているのかを精査する。著者は、「人間脳組織理論」の主張を支持する研究を、公刊されたものであればほぼすべて分析した。するとその結果、それらの研究の多くが、科学の基準を満たしていないことが判明したのだ。もちろん、慎重な研究者は自分の研究の限界についてきちんと述べているのだが、そうでない研究者やジャーナリストたちは、それらの但し書きをこともなげに無視してしまう。それくらい、脳組織理論はいかにもありそうな話に聞こえてしまうわけだ。しかし、いいかげんな方法論、疑わしい前提、一貫性のない定義、得られた曖昧な知見からものすごく飛躍した大胆な結論、こうしたものが何年ものあいだ蓄積されていくと、科学はその科学性を完全に失ってしまうことになる。
       本書の筆致は実にエレガントであるが、他方で、性差の分析のためには現在よりもはるかに厳密で、生物学的に洗練された科学が必要だ、と説くその議論は非常に情熱的だ。「人間の脳の性差がホルモンによって決まるという説を支持する証拠は、堅実な構造をなしているというよりは、寄せ集めの積み重ねというべき代物だ。それらのガラクタは本書で取り除いたわけだから、その代わりに、我々の手で、より科学的な人間発達論を新しく構築していこうではないか。」