みすず書房 新刊一覧(2010年)
2010年10月
- トニー・ジャット,森本醇(訳),『荒廃する世界のなかで: これからの「社会民主主義」を語ろう』,みすず書房,2010年 NEW!!
- 細澤仁,『心的外傷の治療技法』,みすず書房,2010年 NEW!!
- 19世紀末、精神分析の開祖フロイトとフランス精神医学界の巨星ジャネがそれぞれ研究を著すことによって、心的外傷の研究はひとつの頂点に達した。その後の精神医学の歴史において、心的外傷の研究は時代による盛衰を繰り返すことになる。とりわけ精神分析においては、こころの深層にある心的現実が重視されるあまり、現実の心的外傷の軽視という批判に曝されるまでになるのである。わが国において、PTSD(外傷後ストレス障害)という診断名とともに心的外傷が注目されるに至るには、1995年の阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件という大惨事を待たなければならない。本書は、大震災の地で精神科医としての人生をスタートさせた著者が、心的外傷と精神分析について述べるものである。フロイトの外傷論、そして黎明期の精神分析においていち早く心的外傷の研究に従事したフェレンツィの業績を再考する前半部を通して、本書の読者は著者独特の臨床観へと誘われることになる。さらには前著『解離性障害の治療技法』から連なる解離性同一性障害患者の症例、いじめ、自殺、PTSDなど、心的外傷に関連する症例の数々により、独自の臨床観が肉付けされていくように鮮やかに体験されるであろう。フェレンツィ、バリント、そして眼前の患者たち……。著者を刺激しつづけてきた古典文献の議論と、地を這うような臨床の記録を礎に、精神分析理論と外傷理論をつなぐ、迫真の心的外傷論である。
- ヘンリー・ヒッチングズ,田中京子(訳),『世界文学を読めば何が変わる? 古典の豊かな森へ』,みすず書房,2010年 NEW!!
- 李清俊,姜信子(訳),『あなたたちの天国』,みすず書房,2010年 NEW!!
- 韓国南西部に実在するハンセン病隔離の島・小鹿島(ソロクト)。植民地時代、日本の政策によって強制収容された人々が過酷な労働や断種手術を強いられた歴史をもつ。戦後、1960年代初頭の軍政下に、この島の病院長として赴任した現役軍人の趙白憲(チョ・ベクホン)は、「楽園づくり」を開始する。患者たちが自立した生活を送れるよう、自分たちの手で海を堰き止めて農地をつくるという壮大な計画だ。この島では《自由》が何より希求されてきたが、自由には疑いと憎しみと裏切りがついてまわる。住民総出で石をかついで海に投げ込む作業をどれほど続けても、先が見えず、不信が渦巻く。島の長老の言う「自由より貴いもの、愛」は、いつの日にか実現するのか。はたして陸地は現われるのか──。伝統芸能パンソリの旅芸人を描く林権澤監督の大ヒット映画「風の丘を越えて」の原作者・李清俊の代表作となった長編小説。
- 森於菟,『耄碌寸前』,みすず書房,2010年 NEW!!
- 自らの生い立ちと観潮楼の盛衰=哀歓を重ね合わせた「観潮楼始末記」や父の死因を探る「鴎外の健康と死」をはじめ、半熟卵へのオマージュ、日本の解剖学史の逸話、シェパード犬飼育の苦労など――自制と諧謔の絶妙なバランスによって達成された随筆を精選。
- 近藤宏一,『闇を光に: ハンセン病を生きて』,みすず書房,2010年 NEW!!
2010年9月
- 宇垣一成,角田順(校訂),『宇垣一成日記3: 昭和十四年三月―昭和二十四年七月』(オンデマンド版),みすず書房,2010年
- 宇垣一成,角田順(校訂),『宇垣一成日記2: 昭和六年六月―昭和十四年二月』(オンデマンド版),みすず書房,2010年
- 宇垣一成,角田順(校訂),『宇垣一成日記1: 明治三十五年九月―昭和六年六月』(オンデマンド版),みすず書房,2010年
- 酒井忠康,『鞄に入れた本の話: 私の美術書散策』,みすず書房,2010年
- 井出孫六,『わすれがたい光景: 文化時評2000-2008』,みすず書房,2010年
- アリス・ホフマン,北條文緒(訳),『ローカル・ガールズ』,みすず書房,2010年
- アメリカの田舎町に暮らす、優等生グレーテルと美貌の親友ジル。ジルは早々と妊娠して、高校を中退。一方グレーテルは、両親の離婚にドラッグでの兄の破滅、母親の癌など多事多難。2人の少女の挫折と成長を描く連作短篇集。
- ブライアン・ヘイズ,冨永星(訳),『ベッドルームで群論を』,みすず書房,2010年
- マットレス返しや歯車列作りといった具体的なトピックを取り上げ、図書館やコンピュータを駆使して考察する。ほんの些細なことから驚くべき結果が導きだされる数学の醍醐味や愉しみのエッセンスが詰まった一冊。
2010年8月
- 臺弘/土居健郎,『精神医学と疾病概念』(精神医学重要文献シリーズ〈Heritage〉),みすず書房,2010年
- 反精神医学運動、忍び寄る米国の操作的診断基準の影―。精神医学体系の根幹が揺れた時代に、疾患とは、そして精神医学とは何かを問うた、ある討論の記録。
- J. C. ブライトン,都甲崇(監訳),内門大丈/勝瀬大海/青木直哉(訳),『もの忘れと認知症――“ふつうの老化”をおそれるまえに』,みすず書房,2010年
2010年7月
- トッド・デュフレーヌ,遠藤不比人(訳),『〈死の欲動〉と現代思想』,みすず書房,2010年
- 北山修,『最後の授業――心をみる人たちへ』,みすず書房,2010年
- ヴィクトル・ザスラフスキー,根岸隆夫(訳),『カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺』,みすず書房,2010年
- 内藤千珠子,『小説の恋愛感触』,みすず書房,2010年
- 小説が紋切り型の幸福を脱ぎすてて、物語からの夜逃げを企てたとき、剥き出しの「恋愛感触」が現れる。言葉が紡ぐ行き先のない快楽へと誘う、めくるめく批評体験。
- 井出孫六,『すぎされない過去――政治時評2000-2008』,みすず書房,2010年
- 国政から国際政治、太平洋戦争から現在の戦争までを柔軟な思考で論評。歴史・社会への繊細な感覚と持続的批判精神で2000年代の政治を考察した随筆162篇。
2010年6月
- ポール・ヴァレリー,松田浩則/中井久夫(訳),『ヴァレリー詩集 コロナ/コロニラ』,みすず書房,2010年
- ハーペイ・カーケリング,猪股和夫(訳),『巡礼コメディ旅日記――僕のサンティアゴ巡礼の道』,みすず書房,2010年
- 著者のハーペイさんはドイツ人のコメディアン。20歳の頃からテレビ界に入り、人気者のエンターテイナーとしてがむしゃらに走りつづけてきた。2001年、37歳の夏、病気などをきっかけに自分の人生を見つめなおそうと、スペインのサンティアゴ巡礼道、またの名は「聖ヤコブの道」800kmを、一人で歩き通そうとくわだてる。本書は40日にわたってこの巡礼道を歩いた旅の日記であり、コメディ小説のようにも愉しめるノンフィクションだ。神を探し、自分を見つめる心の旅路。ときには鄙びた教会で生と死に思いをめぐらし、ときには居酒屋で仲間と朝まで大騒ぎ。サンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂へたどり着くまでに神は見つかるのか。2007年度ITB(国際旅行見本市)ブック・アワード最優秀紀行文学賞を受賞した、超話題作。
- K. J. ズッカー/S. J. ブラッドレー,鈴木國文/古橋忠晃/早川徳香/諏訪真実/西岡和郎(訳),『性同一性障害――児童期・青年期の問題と理解』,みすず書房,2010年
- 矢内原伊作,武田昭彦/菅野洋人/澤田直/李美那(編),『完本 ジャコメッティ手帖II』,みすず書房,2010年
- 1955年、はじめてアトリエを訪問。以後56‐57年、59‐61年の間、総数230日にわたってモデルとしてポーズをとりつづけた哲学者がアルベルト・ジャコメッティとの対話を詳細に書きとめた6年間の記録(全2巻、本巻は59‐61年の記述を収録)。
2010年5月
- 勝峰富雄,『山で見た夢――ある山岳雑誌編集者の記憶』,みすず書房,2010年
- 井村恒郎,『失語症論』(精神医学重要文献シリーズ Heritage),みすず書房,2010年
- わが国の失語研究の第一人者による重要論考を精選。漢字・仮名をもつ日本語に特有の失語様式「語義失語」概念を提示した記念碑的論文「失語――日本語における特性」他、失語研究の歴史、多種多様な失語の様式とその病理学を詳説した重要論文4編を採録。
- トーマス・ヘイガー,渡会圭子(訳),『大気を変える錬金術――ハーバー、ボッシュと化学の世紀』,みすず書房,2010年
- 物質変換の威力,あるいは魔力。人工窒素固定、化学兵器、IGファルベンを生みだしたボッシュとハーバー。彼らが人類史上に果たした役回りは、ロバート・オッペンハイマーのそれにも比べうる。人と炭素の未来を映しだす、窒素の物語。
- ジュリアン・バーンズ,堤けいこ(訳),『文士厨房に入る』,みすず書房,2010年
- イギリス実力派作家による料理エッセイ。レシピは書物、仕事は慎重、そして調味料はウイット。すべての厨房男子とそのパートナーに捧ぐ、面白くて役に立つ本。
- フランツ・カフカ,吉田仙太郎(訳),『カフカ自撰小品集』,みすず書房,2010年
- 約20年の作家活動の初期・中期・後期に、カフカ自身によって編まれた三冊の小品集『観察』『田舎医者』『断食芸人』。刊行当時「潔癖きわまるドイツ語散文によって統御された幻想」と形容された作品世界の言葉づかい/息づかいが、透き徹った訳文でよみがえる。
2010年4月
- 野呂邦暢,岡崎武志(編),『夕暮の緑の光――野呂邦暢随筆選』,みすず書房,2010年
- ハリー・ハルトゥーニアン,カツヒコ・マリアノ・エンドウ(編・監訳),『歴史と記憶の抗争――「戦後日本」の現在』,みすず書房,2010年
- 日本語の「戦後」の意味は、過去65年間全く変らない。なぜ私たちは「戦後」がこれだけ続くことを疑問に思わないのか。日米関係を徹底して問い直す待望の論集。
- ジョン・H・ヴァンダーミーア/イヴェット・ペルフェクト,新島義昭(訳),『生物多様性〈喪失〉の真実――熱帯雨林破壊のポリティカル・エコロジー』,みすず書房,2010年
- ジョルジョ・アガンベン,岡田温司(監訳),橋本勝雄/多賀健太郎/前木由紀,『イタリア的カテゴリー ――詩学序説』,みすず書房,2010年
- エルンスト・カッシーラー,須田朗/宮武昭/村岡晋一,『認識問題 1――近代の哲学と科学における』,みすず書房,2010年
- 栩木伸明,『声色つかいの詩人たち』,みすず書房,2010年
- 新妻昭夫,『進化論の時代――ウォーレス=ダーウィン往復書簡』,みすず書房,2010年
2010年3月
- ピエール・ジュネ,松本雅彦(訳),『被害妄想――その背景の諸感情』,みすず書房,2010年
- 妬み、気後れ、自己不全感…なぜ日常の感情が被害妄想への変貌を遂げるのか。妄想に先立ち、妄想を駆動する感情のメカニズムを鮮やかに解き明かす古典的名著。
- ピエール・ルジャンドル,森元庸介(訳),『ルジャンドルとの対話』,みすず書房,2010年
- 「読者よ、ここで語っているのはひとりの老いぼれだ。」ドグマ人類学によって西洋の根底を照射してきた孤高の思想家が初めて明かす自身と世界への問いかけ。
- 池内紀,『祭りの季節』,みすず書房,2010年
- 北海道木古内の“寒中みそぎ”から長崎玉之浦の“大宝砂打ち”まで。全国36の、風土に根づいたなつかしい祭り、その文化的伝統の歴史と実態をとらえた十数年の成果。撮り下ろし写真41点収録。
- アンソニー・ピム,武田珂代子(訳),『翻訳理論の探究』,みすず書房,2010年
- 等価、機能主義、記述的研究、不確定性、ローカリゼーション、文化翻訳など、重要な論点を探求。カルチュラル・スタディーズ、社会学の議論をも含め、翻訳の根源的テーマに鋭い問題提起をする。
- 矢内原伊作,武田昭彦/菅野洋人/澤田直/李美那(編),『完本 ジャコメッティ手帖I』,みすず書房,2010年
- 「いつも道を見失う男の感動すべき姿」が、ここにある。モデルとして、不動の姿勢をとりつづけること230日、哲学者ヤナイハラによって記された全身芸術家、アルベルト・ジャコメッティの素顔。
- 徐京植,『汝の目を信じよ!――統一ドイツ美術紀行』,みすず書房,2010年
2010年2月
- クロード・レヴィ=ストロース,吉田禎吾/渡辺公三/福田素子/鈴木裕之/真島一郎(訳),『神話論理IV-2 裸の人2』,みすず書房,2010年
- 渡邊一民,『武田泰淳と竹内好――近代日本にとっての中国』,みすず書房,2010年
- ジョン・W・ダワー,明田川融(監訳),『昭和――戦争と平和の日本』,みすず書房,2010年
- 戦時のスローガン「一億一心」が覆い隠した社会の無秩序と緊張とは?日米関係の基本的な性格とは?「役に立った戦争」「日本映画、戦争へ行く」「日米関係における恐怖と偏見」ほか刺激的な8編。
- ジャン=クロード・シュミット,小林宜子(訳),『中世の幽霊――西欧社会における生者と死者』,みすず書房,2010年
- 忘れたい生者の意志に逆らうかのように、死者は反抗的にふるまい、夢に侵入し、思い出をよびさまし、家に取り憑く。西欧のイマジネールをめぐる社会史に新たな分野を拓く、歴史人類学の名著。
- 林もも子,『思春期とアタッチメント』,みすず書房,2010年
- 成長の喜びと葛藤…そのとらえがたい心性にどのように接近し、どのように触れるか。ボウルビィ以後の研究を礎に臨床のなかで磨かれた、精神分析理論と発達理論をつなぐ思春期理解の方法論。
- 斉藤道雄,『治りませんように――べてるの家のいま』,みすず書房,2010年
- 外岡秀俊,『アジアへ――傍観者からの手紙 2』,みすず書房,2010年
- ロンドン、東京、香港を拠点に、世界を、アジアを、そして日本をみつめる著者が届けつづけた55通の手紙。一方でのジャーナリストとしての取材の緻密さと論理構成、他方での文学的筆力と想像力が合わさった、過去と未来の間をめぐる記録(2005-2009)である。
- 江藤秀一/芝垣茂/諏訪部仁(編著),『英国文化の巨人サミュエル・ジョンソン』,みすず書房,2010年
- 「16世紀のシェイクスピア、18世紀のジョンソン」と呼ばれるほど、英国で人気の高い文豪サミュエル・ジョンソン。英国初の本格的辞書『英語辞典』の編纂者ジョンソンの、生涯と魅力を紹介する。
2010年1月
- ヴィクトーア・フォン・ヴァイツゼカー,木村敏(訳),『パトゾフィー』,みすず書房,2010年
- 人間の生は合理的な認識よりも反論理的なパトスに支配されている。生命と環境の相互関係をパトスの様相のうちに求め、個人の心身と病理から社会の臨床へいたる壮大な“医学的人間学”の全貌。
- フェリックス・ガタリ,ステファン・ナドー(編),國分功一郎/千葉雅也(訳),『アンチ・オイディプス草稿』,みすず書房,2010年
- 早稲田大学大学史資料センター(編),『大隈重信関係文書6 さの―すわ』,みすず書房,2010年
- アンニバレ・ファントリ,大谷啓治(監修),須藤和夫(訳),『ガリレオ――コペルニクス説のために、教会のために』,みすず書房,2010年