人文総合演習B 第3回 竹沢尚一郎『社会とは何か』

社会とは何か―システムからプロセスへ (中公新書)

社会とは何か―システムからプロセスへ (中公新書)

あれなんですよね。社会学とか言ってるけど、社会学は今日にいたるまで、「社会」という対象をうまく位置づけられていないんですよね。

社会というのはこういうもんだ、いやそういうのじゃなくてこういうのだ、という議論をするときに、いったいそれぞれの主張の妥当性を、何に照らして確かめたらいいのか、それが決まっていない、というか、それ自体が、個々の主張の妥当性に依存するわけです。セルフ・レファレンスですねえ。
むしろ、各論者の「社会」概念の使い方に、その論者の理論の根幹に関わる意思決定が隠れていると考えたほうがいいかもしれません。そうすると、社会概念の定義の妥当性は、それによってつくられる理論全体の妥当性によって判断されることになるでしょう。
私が研究しているニクラス・ルーマンは、「現代において社会は世界社会でしかありえない」と言っており、そして今回の報告者の一人がこれと全く同じことを言っていて面白かったのですが、ここから考えるべきことは、その命題自体が妥当かどうかではなくて、その命題、あるいはその命題を導いた概念定義から出発することでどんな理論体系ができるのか、そうでない場合の理論体系とどんな点で変わってくるのか、といったことなのだと思います。
ああ、えーと、また長くなりそうなので、このへんにしておきます(Twitterこの辺とかこの辺を見ると、少しは参考になるかも。いらん話が多すぎるけど)。
担当者たちには、初回ということで、否応なく君たちは次回以降の基準となるのだ! とプレッシャーをかけておきましたが、きちんと応えてくれてよかったです。
 
以下、レスポンスカードより。

  • 「社会」と簡単に使っているが、これほど難しいものとは思わなかった。質問した方もわからなくなるような内容だった。

  • 今回の議論を聞く中で自分でも深く考えることができた。次はもっと発言して更に考えを深められたらいいと思う。

  • 今日の議論は、社会を国単位で考えて進められてきた。しかし、多数の部族が反発しあっているナイジェリア、これを社会としてとらえると、さらに複雑な議論になるだろうが、そういった議論の方も興味深い。今日の発表者の方々は皆さんすばらしかったと思います。

  • 発言するのは難しいと改めて感じたけど、少し楽しかったと思えたので、次の授業ではもう少し議論に参加しようと思いました。

  • 「社会」についての定義は、人によって様々であることがよく分かりました。自分の中に持っていた「社会」の定義と、人の考えとの違いが面白いと思いました。

  • 想像以上にハイレベルな議論で驚いた。自分が発信する新しい情報がどういうものなのかよく分かりました。でも私は社会の単位をどうとらえるかもう少し色んな人から聞きたかったです。

  • 報告者・コメンテータのみなさんの発表は、それぞれしっかりと組み立てられていて、圧倒されました。私はあまり主題に対して自分の意見を明確にできていなかったので、もっとふみこんで考えていきたいと思いました。

  • 全体的に話があんまし関係ないような話にすすんでいった気がした。司会者の方がだんだん司会が上手になっていくような気がした。

  • 初めてで、報告者でもないのに、緊張してしまいました。しっかりと本を読んできましたが、本を読むだけではいけなくて、報告・コメントの人たちの意見を理解して、自分の意見も考えていかなければならないのが、結構大変なことだと感じました。全く発言できなくて申し訳ありませんでした。次回からは自分の考えを主張したいです。

  • 大勢で議論するのは面白い事だと思いました(議論中には発言できませんでしたが・・・すいません)。次回は頑張ります。よろしくお願いします。

  • 報告者の感想  「社会」の捉え方がそれぞれで違っていることを実感しました。特に〇〇さん[注:コメンテータ]の、自分の内側に「社会」という概念の要素を求めるという考えは私にはまったくなかった発想だったのですごく面白かったです。もっと多くの人に「社会」についての考えを聞ければよかったと思いました。でも「社会」って考えれば考えるほどわけがわからなくなってくるものなんですね。/質問について。対立があったとしてもそこをスタート地点にできればよいのでは、と思います。私の定義した「社会」はそのような対立や差別・抑圧をなくそうと努力していく場なので。だからいろんなところで対立が起こっている現在だって「社会」である、と私は考えています。質問の意味を取り違えていたらすみません。/議論としては〇〇さん[注:コメンテータ]へ質問が集中してしまい、報告者としてもっと皆が突っ込みやすいようなレジュメをつくれたらよかったのかな、とも思いました。(先生に質問です。報告者に質問があまりこないのは報告者の技術不足、ということでしょうか?)/あと、最初だったからかなんだか聴衆の方々がすごく優しかったです。△△さん[注:司会者]はさすがというか、今後の司会のよいお手本だったと思います。自分の発言を整理してくださったのですごく助かりました。

  • 報告者の感想  本が難しく、報告がなかなかまとまらなかったのが反省点です。次回のコメンテーターの時は、ちゃんと自らの意見を整理してきたいと思います。文化対立が起こっているとしても社会と呼べると思います。

  • コメンテータの感想  「片方が妥協して尖閣諸島を譲れば、もう片方が納得しない」という言い回しについて。確かに、冷静に考えてみたら意味のわからない文章になってしまいました。申し訳ないです。意味的な説明をすると、領土問題についてどちらかに譲るという決断をすることになった場合、国同士の話し合いが行われますが、話し合いを行うのは、この問題によって何らかの損失を直接的に受ける一般庶民ではなく、国のトップであると思います。そのときに、仮に「日本が中国に譲る」となったら、日本側の当事者たちが犠牲になるわけで、彼らの意志とは無関係に話が進んでしまい、納得出来ないだろうと思った、ということです。

  • コメンテータの感想  自分で「社会」を定義することはとても難しかった。ここまであいまいな社会なのに、私たちは普段どういうふうに社会をとらえてるのだろう。何も考えず「社会」という言葉を使っているが、このとき私は何を思い浮かべているのか、よくよく考えてみるのもおもしろいと思った。

  • 司会者の感想  最後、時間が少しおしてしまって、申し訳なかった。また、もう少しみんなの意見が出やすいように、司会進行を工夫できなかったかなあと悔やまれる。報告者やコメンテーターに助けられました。