鈴木光司『ループ』

ループ (角川ホラー文庫)

ループ (角川ホラー文庫)

『リング』や『らせん』はよかったのに、『ループ』で失望した、という人が結構いるけど、それははっきりいって錯覚である。『リング』の時点からすでにこの人の作品は、少なくともホラーではないし、たいして面白くもなかった。ホラーだとか面白かったという記憶は、映画『リング』に対するものだし、確かに、映画『リング』を念頭に置きながら読めば、小説『リング』はそこそこ楽しめるのだが、さっきからいっているようにそれは錯覚である。もちろん錯覚でも楽しめればいいのだが、言いたいのは、鈴木光司に期待するのが間違いだということ。
『リング』には、「呪いのビデオ」というフックがあったし、それを見てしまったことによる時限モノという緊張感が、まああった。『らせん』では、映画『リング』によってとてつもない魅力を吹き込まれた山村貞子のイメージを念頭に置きながら読めば、それなりの雰囲気を楽しむことができた。ところが本作『ループ』では、そういった興味の持続を保証してくれるフックがまったくないため、読み進めるのが大変に苦痛だ。あとで文句言ってやろうと思いながら読んだのでなんとか読めたという感じである。
「呪い」が存在する理由を合理的に提示する、ということだけが本作の存在意義であり、そのこと自体が『リング』の魅力を損なうものだと思うが、それを抜きにしても、鈴木光司の圧倒的な筆力のなさはちょっと耐えられないレベルである。要するに、自分がいろいろ本を読んで勉強したこととか、意志って大切ですよねという幼稚な作者の思想とかが、地の文と会話文を問わず、恥ずかしげもなくだらだら書かれているだけ。こういうの小説っていうのかねえ。
ちなみに、ちょっとワロタ箇所。訪米した主人公の馨(実は高山竜司の転生)。

「ハーイ」
馨は奥に向かって声をかけてみた。もちろん返事はない。

お前はイクラちゃんか。こういうときは「ハロー?」でしょ。