定理2.1.1 「下に有界」なら「最大下界」がある。

経済学のための数学入門』、定理2.1.1(64頁)。

実数集合 の空でない部分集合は、「下に有界」なら必ず「最大下界」がある。



連続性の公理」のところで、「上に有界」とか「上界」とか「最小上界」については説明しました。それとまったくパラレルな概念として、「下に有界」とか「下界」とか「最大下界」といった概念が成り立ちます。
簡単に、というか乱暴に説明すると、「最小上界」というのが、ある部分集合内のどの数よりも大きな数の中で一番小さいやつのこと、だったのに対して、「最大下界」というのは、部分集合内のどの数よりも小さい数の中で一番大きいやつのこと、ととりあえずイメージしましょう。
ちゃんと書きましょう。実数集合の部分集合 を用意します。このとき、

となるような実数 が、 の「下界」(の一つ)です。すべての下界を要素とする下界集合を とします。すると、

ですが、このとき

を満たすような が存在すれば、それが の「最大下界」です。 と書きます。



さて、今回の定理は、「上に有界なら最小上界がある」という公理を前提にすると、「下に有界なら最大下界がある」も言えちゃうよ、というものです。実際、証明ではこの公理をほとんどそのまま使います。

では、空でない実数の部分集合 を用意しましょう。その上で、「 は「下に有界」である」とします。「下に有界」というのは「下界がある」ということですから、下界の集合を としますと、

ですね。ここで不等式の移項をやりましょう(これが可能であることはいちいち証明しません)。すると

となります。なんか上界っぽい感じになってきたので、そうしてやります。つまり、 の要素の加法の逆元の集合を とし、 の要素の加法の逆元の集合を とします。つまり、


です。これで上の(1)を書き換えます。

となって、部分集合 は上界集合 をもつことがわかります。つまり は「上に有界」なわけです。ここで、「上に有界なら最小上界がある」わけですから、

を満たす最小上界 があるはずです。ここでまた、不等式の移項をします。量化のところの集合も戻してやりましょう。

これはまさに、 の「最大下界」だということですね。これで証明は終わりです。