非常勤「社会調査」第4回

受講生が3人辞めて1人になったんですがwww
さて気を取り直して、今回は、母集団と標本の間の概念的関係を、受講生の調査計画書案を検討しながら確認しました。
インターネット調査は社会調査に利用できるか」に載っていた下の図を拝借して説明しました。



対象母集団というのは、調べたい対象を、概念的に定義したものですね。これは、ある人がいたときにその人が対象に入るか入らないかを一意に判断できるような明確な定義でないといけません。これを明確にしようとする過程で、最初は漠然としていた、自分の問いが、つまりどういう人のどういうことを知りたいのかということが再帰的に明確になり、またそれによって対象母集団が明確になるという循環が起こり、それを繰り返すことで均衡に達することになります。
受講生の研究計画は、大学の○○実習授業の満足度と、○○業界への就職希望の間にどういう関係があるかを調べたいというものですが、対象母集団を○○学科の3年生全員、としていました。ここで、対象母集団を実習参加者に限るべきか否か、そもそも就職を希望しない学生はどうなのか、といったことを考えていくわけです。そうやって自分の問いに、他の可能性が突き付けられ、本当に知りたいことはなにかが明らかになっていきます。

枠母集団は、実際に調査対象となる可能性のある人の集合です。選挙人名簿によるサンプル調査の場合は、選挙人名簿に載っている人の集合が枠母集団です。対象母集団に含まれるけど名簿に載っていない人が除外されるため、枠母集団は対象母集団の部分集合になります。
受講生に枠母集団として何を考えているかを聞くと、実習のレポート集があるので、そこから名簿をつくるという話でしたが、それだとレポート未提出者が除かれるし云々という話をしながら、利用できるなら事務にある履修者名簿がよいのではないかということになりました。

計画標本は、枠母集団のうち、調査計画の段階で質問の対象とすることにした人の集合です。計画標本を選ぶのが、様々なサンプリング技術です。
受講生は、3年生全員が出席する××という講義があるので、それが始まる直前の5分くらいの間に質問紙を配布して回収するという計画を立てていました。全数調査なわけで、それゆえ計画標本は枠母集団と一致していると想定しておりました。ただ、5分前に全員が着席しているかどうか、遅刻者が排除されることになるがよいのか、授業開始前のざわざわした空間でまともに回答してくれるのか、といった疑問は出てきます。いろいろ考えた結果、その授業の担当教員に協力してもらって、授業の途中に時間をもらって配布回収するというアイデアが出ました。これはちょっと難しそうな気がしないでもないですが、とりあえずそれに落ち着きました。
ここまでが、調査計画です。

実査においては、計画標本のすべてが回収できるわけではないので、回収標本は計画標本の一部ということになります。回収標本の数が計画標本に近いほど、分析結果が枠母集団に適用可能になるわけで、そのために回収率を上げるための努力をしなければなりませんが、今日はその話はちょっと触れるだけに。

回収標本が分析の対象になります。分析手法についても今日は触れませんでしたが、様々な分析を行うことで、回収標本については確実にいえるということを発見していきます。

回収標本についてはこれこれのことが分かった、というだけでは調査は終わりません。そもそも知りたかったのは対象母集団についてであり、実践的には枠母集団についてなわけです。枠母集団について知るために計画標本を抽出したわけですが、残念ながら回収標本は計画標本の一部にとどまりました。なので、回収標本についていえたことが枠母集団についてもいえるとはいえません。そこで、回収標本についていえたことが、どの範囲にまでいえるのかということを決め直したのが代表母集団です。

他にもいろいろと疑問点を挙げて、受講生に答えてもらいながら、また一緒に考えながら、問題意識を明確化していきました。社会調査は、統計学そのものとは違って、調査者の問題意識や、調査対象の状況、予算等によって多大な影響を受けます。その辺の、俗っぽい条件をいちいち明らかにしながら、少しでも正確なデータが得られるような計画を立てる、というのが大切なので、こういうふうに、具体的な調査計画をねちねちと検討していくのが、教育効果が高いのではないかと思います(とか言っているけど、受講生はあと1人なのだけど・・・)。