伊藤比呂美『日本ノ霊異ナ話』

日本ノ霊異(フシギ)ナ話 (朝日文庫)

日本ノ霊異(フシギ)ナ話 (朝日文庫)

風呂。『日本霊異記』に題材をとった短篇集(?)。「くぼにまらを」ばっかりで、感心するところが全然ない。解説の人が

ふつう、「詩」といえば、とても抽象的な言葉の営み、と思われている。でも伊藤比呂美の作品(小説、そしてたぶん詩も)ほど即物的な営みはない。あたかも、どのように書けば、言葉を観念から解き放ち、より即物的なものに変えることができるのか、この「詩人」は無我夢中で試みつづけているかのような、そんな印象を受ける。(p. 188)

あるいは「赤裸々」などと形容されるこの著者の性交表現はほとんど「くぼにまらを」式の単純なものばかりで、単純ということは抽象ということであって、解説でいうように抽象でなくて即物というのは意味がわからない。そもそもセックスというのは本質的に観念的なものなのだから、観念から解き放った言葉で「即物」的に描けるわけがない、と思う。