サイモンほか『行政学』:「要約」と「結論」

  • Herbert A.Simon, Donald W. Smithburg and Victor A. Thompson, 1950, Public Administration, Alfred A. Knopf

第一章 「行政とは何か」

なし

第二章 「政府組織ができるまで」

結論

 この章では、一つの政府組織が新しくできるまでの様子を、大まかに見てきました。その過程は、まずある個人や小集団が何らかの問題を発見し、その問題を処理するには政府の活動に頼るしかないと考えられるところから始まりました。そして発見された問題は、まるで池に投げ入れられた石のように波を立て、その波は他の集団や個人がその問題の存在に気づくまで広がっていくのでした。

 最初に問題に気づいた集団の提案に対して、後から問題に気づいた集団は、それぞれの信念や利益、問題の捉え方、動機に基づいて様々な反応をすることになります。その提案が時宜に適ったものであれば、それはただちに具体的な組織形態をとることができます。もしその提案が、提案された側の経験や利益の外部にあるものである場合には、提案は無視され、最初の集団の努力は多くの場合、すぐに立ち消えになってしまいます。

 この本では、これ以降、すでに存在している組織の研究に多くのページを割くことになりますが、この章の中心となる概念、つまり、組織が成長するか衰退するかは、組織の掲げる目標と、組織に参加する個人の動機や利益関心との間の相互作用によって決まるという考え方は、この本全体にとっても中心的な主題となります。

第三章 「人間行動と組織」

要約:個人と組織

 この章では、個人を組織に結びつけ、個人の行動を組織行動のシステムの一部とする複雑な関係図式について検討してきました。個人が組織の成員になると、彼の選択や決定の基礎である事実前提と価値前提が変化し、それに従って彼の行動も変化するのでした。組織の成員となることで、組織の成員でなかったら追求しなかったはずの目標を追求するようになり、また組織の成員でなかったら考えないような手段を選ぶようになるのです。

 とはいえ、成員個人というのは組織の意のままに操られるような存在では決してありません。彼の行動を制御することは、非常に狭い範囲でしかできないのです。成員の実際の行動を説明するにあたっては、組織の外部からの過去および現在の影響、特に組織の公式計画に含まれない影響が無視できないのです。

 組織に対する抵抗は個人によるものだけではありません。集団単位での抵抗というのもあります。成員というのは社交的な存在ですから、彼らは自分が直接所属している労働集団のことをすごく気にします。そしてこれが、組織内での行動に対する影響として重要な要素になるのです。この対面集団の役割と、それが組織経営に対して持つ重要性については、最近になってようやく適切な注意が向けられるようになりました。そこで次の章では、集団への忠誠心と、それが組織経営において果たす役割について述べることにしましょう。

第四章 「組織の基本単位:集団の形成」

要約

 この章では組織を構成する構造単位の中で一番小さな単位である労働集団について検討してきました。労働集団というものがどうやってできるのか、労働集団に対する忠誠心がどうやって涵養されるのか、そしてこの忠誠心が個人の行動に対してどんな影響を及ぼすのか、こうしたことについて見てきました。中でも重要なのは、個人というのは複数の労働集団に所属することがあり、そのため直接所属している集団以外の集団に対しても同一化する可能性があるということです。実際、監督・管理職が組織の中でどんな役割を果たすかということは、この人たちが、自分の部下たちと作る労働集団と、自分の同僚や上司たちと作る管理職集団のそれぞれに対してどのように同一化するかということによってかなりの部分決まってくるのでした。この二重の同一化は、大規模組織が一定の統合度を保つのに非常に重要な要素です。
 以下で行っていく組織の分析にとって、この同一化という概念と、労働手段と言う概念は非常に重要な基礎となります。この二つの概念が、現実的で真に動態的な行政学理論の基礎となるべきものだということは、議論が進むにつれて追い追いわかってくることでしょう。

第五章 「組織の基本単位:集団の掲げる価値」

なし

第六章 「分業:個人に対する仕事の割り当て」

要約

 この章では、組織構造の最も重要な要素の一つである分業についての分析を始めました。組織の生産性というものは何らかの目標に基づいて測られるものですが、分業がどんな形で行われるかということは、この生産性に対しても、またそのもとになる目標に対しても、重大な影響を及ぼします。この章では、個人の専門化においてこの影響がどういうふうに現れるかということをくわしく検討してきました。どんな組織でも、分業が行われるときには、公式の計画と非公式の過程が両方とも関わってきます。章の末尾では、分業を計画する人に対して課されてくる制約のいくつかについて触れ、またこの人が分業の形態を組織が追求している目標や価値にどうやって合わせていくのかと言うことを見ました。

第七章 「分業:組織単位ごとの専門化」

結論

 この章では、複数の組織単位の間での分業の問題について論じてきました。分業のやり方にもいろいろあって、それぞれに利点がありますが、組織化に「最善のやり方」があるという考え方は、同質的な価値体系を持った集団にしか意味がないということを指摘しました。組織分析をする人の仕事は、専門分化のやり方にどんな可能性があるかを突き止め、それぞれの可能性の長短を勘案して評価することです。組織が長期間にわたって存続できるかどうかは、この評価が正しいかどうかで決まってくるといえるでしょう。
 ここでもう一度強調しておかなければならないのは、組織図や組織機能を記した書類など、公式の組織計画に組み入れられた分業体制というのは、日常的な組織運営の現実にそぐう場合もあればそぐわない場合もあるということです。第四章や第五章で指摘しましたが、組織計画を評価する際には、その計画が現実にどのような行動を惹き起こしたかを見なければいけません。これは公式の計画一般に言えることですが、分業の計画にも十分当てはまります。
 この章の最後のところで述べたように、ほとんどの組織に共通する分業の領域というのがあります。「自然」な基本単位といえるでしょう。この後の章では、この「自然」な単位から、ほとんどすべての大規模組織に共通する典型的な組織構造、典型的な組織問題が生まれてくることを示そうと思います。ただその分析に入る前に、組織構造についての一般論を完成させておかなければなりません。ここまでは、基本単位だけを議論の対象にしてきました。専門分化した各単位と、それぞれの単位をまとめ互いに他から区別する同一化についての議論でした。なので、次はこれらの各単位の間をつなぐ関係について論じなければなりません。次章以降、権威とコミュニケイションを主題としながら、組織単位間の協働という中核的な問題について論じていくことになります。

第八章 「協働を支えるもの:権威」

なし

第九章 「協働を支えるもの:権威と地位の構造」

結論

 前章と本章で、組織内の権威について、いくつかの問いに本書なりの回答を試みてきました。第一に、権威というものについて、行動主義的な定義を与えました。これによって、現実の事例において、どういうときに権威が存在するといえ、どういうときにいえないのかがはっきりしました。第二に、被用者が権威を受容する心理学的な動機と、この権威に限界を定める要因のいくつかについて検討しました。第三に、組織全体のパターンの中で、ハイアラーキ的な公式権威が演じる役割について検討しました。
 分析を進めていく中で、権威の行使には、提案をする人とそれを受容する人の間でのコミュニケイションが必要であるということがわかってきました。他方、権威に限界を与える重要な要因の一つに、提案を伝達するコミュニケイションシステムの限界というものがあるということもわかりました。このため、組織の解剖学を進めていく我々が次に目を向けるべきはこのコミュニケイションシステムだということになりそうです。というわけで次章と次々章では、組織コミュニケイションの研究について論じることにしましょう。

第十章 「協働を支えるもの:コミュニケイション過程」

結論

 この章では、組織の中でコミュニケイションが演じる役割について、また公式のコミュニケイションと非公式のコミュニケイションがそれぞれどんなもので、コミュニケイション過程の中でそれぞれどんな位置を占めるのかについて、そして適切で効果的なコミュニケイションを阻む重大な障壁について、論じてきました。議論を進める中で、組織内のコミュニケイションシステムというのは人体における神経システムに比肩しうるほど重要なもので、それがうまく働かないときの影響も同じくらい重大なものであることがわかってきました。
 神経システムとのアナロジーをもう一歩進めてみましょう。人体の神経システムというのは、細胞間のコミュニケイション経路の単なる集合ではありません。神経システムには、それぞれ高度に専門化した機能を担う多くの要素が含まれています。感覚器官とか、脳の各部位がそうです。組織のコミュニケイションシステムも同じように、専門化した重要な要素を有することがあります。この要素如何で、コミュニケイション過程が効果的に働くかどうかが左右されるのです。次章では、コミュニケイションシステムの組織について、またその内部で専門化した各部分について、検討することにしましょう。

第十一章 「協働を支えるもの:コミュニケイションの組織化」

結論

 この章では、コミュニケイション過程をスムーズにし、組織内で下される決定が、十分な情報に基づいた決定であるようにするための公式の配置のいくつかについて検討しました。公式の組織計画を用いると、こういうコミュニケイションが必要なときにはこういう経路を使え、というような特定が可能になります。また、提案を承認するに当たって、事前または事後にその内容を検討するための公式手続を定めることもできます。さらに、組織の内外から情報を収集し、それを必要としている部署へ伝達することを任務とする専門単位をつくることもできます。
 コミュニケイションは、現在社会学者や心理学者の多くが注目している主題です。会議の動態について、またコミュニケイションを支援したり阻碍する要因について、すでに多くのことがわかっています。また、標本抽出技術を用いて目的を特定した有望な実験が行われてもいます。コミュニケイションという主題は、あと数年のうちに格段の進歩を遂げると期待することができます。
 第四章から前章まで、社会的集団、分業、権威システム、コミュニケイションシステムといった、組織の構造をつくる主要な要素について個別に見てきました。大規模で複雑な組織が実際にどう動いているのかを理解するのに、これらの要素がどう役立つのか、今度はそれを見ることにしましょう。

今日はここまで。

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