ラドクリフブラウン「冗談関係について」

  • A. R. Radcliffe-Brown, 1940, "On Joking Relationship," Africa 13, pp. 195-210, reprinted in: A. R. Radcliffe-Brown, 1952, Structure and Function in Primitive Society, Cohen & West, pp. 90-104

「冗談を言い合う」関係とは限らない。一方的なからかいの関係も含むので。

 個人は氏族のような一定の集団の成員である。氏族の中では、社会生活の主な側面のすべてについて、他の成員との関係が、権利義務の複合体によって定義されており、それが一定の賞罰によって支えられている。自分が所属している集団の外部にまた別の集団があって、その集団の成員との間にも同種の法的・道徳的関係が適用される場合もある。(中略)しかしそうやって社会関係が定義されている領域の外部には別の集団があって、その成員は最初の集団から見ると外部者であるために、敵対関係が成立する可能性がある。また実際に成立している場合もある。集団同士がそういう関係である場合、両集団の成員同士の間に固定的な関係が成立しているならば、その関係は集団同士の間の疎遠さを表しているはずである。冗談関係が成立している場合、そこに現れ、また強調されているのがまさにこの種の疎遠さなのである。敵意を示し、またつねに不敬な態度をとるというのは、構造的状況の本質的な部分をなす、この社会的な分断の表現なのである。この分断を覆い隠すようにして、友好や相互扶助のような社会的結合が形成されているのだが、それによって分断がなくなったり弱まったりすることはないのである。
 これはつまり、氏族や部族の間の、また姻戚間の連携を構成する冗談関係というのは、確定的で安定的な社会的行動システムの組織化様式の一つであり、それによって結合的成分と分断的成分の両方が維持され、互いに結びつけられている、という理論である。(p. 94-95)

ある社会にある形で現れている制度を科学的に説明しようと思ったら、その社会を集中的に研究して、その制度が、どのような一般的現象の特殊な現れであるのかを明らかにするしかない。ある社会にある形で現れている冗談関係についても、それが一つの整合的なシステムの一部であることを理解するためには、社会構造の全体を徹底的に研究する必要があるということだ。その社会にそのような構造があるのはどうしてかという問いに対しては歴史をもって答えるしかない。アフリカの土人社会のように歴史の記録がない場合は憶測に頼るほかはないが、憶測からは科学的知識も歴史的知識も得られない。(p. 104)