システム分化と複雑性の増大

 ルーマン先生曰く、

システム分化というのは、システムの内部でもう一回システムを作ることに他ならない。システムの内部でさらにシステム/環境の差異が分出する(中略)このように、全体システムの内部でシステム/環境の差異が複製され、その結果全体システムの内部に複数のシステム/環境の差異が引かれ、これによって全体システムは自己を複数化する。複数化するというのは、各部分システムとそれぞれの内部環境の差異は、パースペクティヴが異なるだけで、実はすべて同じ全体システムだからである。したがって、システム分化というのはシステムの複雑性を増大させる手続の一つだといえる。(Soziale Systeme, pp. 37-38)

 冒頭の定義を見ると、システム分化というのは、元のシステムが複数のシステムに分かれることではない。元のシステムが(部分)システムと(内部)環境に分かれることである。だから、システム分化が一回行われただけでは、部分システムは一つである。
 他方、システムの複雑性の増大といわれているのは、元のシステムが複数の((部分)システム/(内部)環境の)差異の、同一の指示対象となることである。ここでは部分システムが同じ水準で複数存在することが前提であり、つまりシステム分化が複数回行われたことを含意する。
 というわけで両者の間には断絶がある。正しくは、システム分化を同水準で繰り返すことでシステムの複雑性が増大するというべきである。
 ところで、differenzieren, Differenzierungはふつう「分化」と訳されるし、ここでもそう訳している。これからもそう訳すだろう。しかし、「差異化」と訳す方が正しいのではないかと思うことが時々ある。というのも上の定義でわかるように、システムはDifferenzierungによって、(部分)システムと(内部)環境の差異(Differenz)になるからである。そういう意味で「差異化」することで、またその「差異化」の仕方が複数あることで、システムは複雑性を増すわけだ。「分化」というと、どうしても「複数のシステムに分かれること」をイメージしてしまいがちだが、最初に書いたようにそれは違う。うーん、悩みどころ。