平澤正夫『牛乳・狂牛病問題と「雪印事件」』

 私は低温殺菌牛乳を買っているし、たまには奮発してノンホモも買っている(超高温殺菌と較べて低温殺菌は数十円高いだけだが、ノンホモは数百円高い)。また加工乳とか絶対に買わない。殺菌法は高温になるほど殺菌力に優れる。だからこそ、殺菌前の生乳については、殺菌温度が低温であるほど新鮮である保証が高い。これは事実だと思う。
 というわけで牛乳の話は共感しながら読んだし、木次乳業や東毛酪農とか、そんなん近所のスーパーに売ってないわと思いつつも興味深く読んだ。まあそもそも森永砒素ミルクにしても雪印黄色ブドウ球菌にしても、事件が発生して人的被害が出ているがゆえの説得力というのはかなり強いもんだというのもある。
 それにしても、狂牛病のところはあまりにもひどい。第五章「狂牛病BSE)はウシのテロだ」。・・・え、えー? で、でもまあそういう見方もあるかな、肉骨粉という形で共食いさせられてきたウシたちの怨念のこもったテロか・・・と。で次のページ開いたら、某牛飼いの

狂牛病はわれわれにとっては、あのテロみたいなもの、ウシへのテロだったよ」(p. 166)

というせりふが。また

ウシへのテロである狂牛病の世界では・・・(p. 203)

とある。9.11を「米国のテロ」という人はいない。ウシへのテロを「ウシのテロ」というのはどうなのか。
 また狂牛病感染牛の生乳をマウスの脳内・腹腔内に接種、および経口投与した実験で狂牛病が発症しなかったという実験について、

病原体でも薬物でもいいのだが、ある物質の生体に対する作用や効能をしらべるときには、まもらなければならない鉄則がある。比較検討の鉄則だ。今の場合に即していえば、狂牛病ウシの牛乳をのんだマウス、ふつうの牛乳をのんだマウス、牛乳をのまなかったマウス、少なくとも三つのグループをつくって結果を比較しなければならない。にもかかわらず、当該実験はそういうことをまったく無視した。科学の名に値しないままごと遊びというしかない。(p. 212-213)

とむちゃくちゃ手厳しいのだが、「発症しなかった」という結論に対して、それら対照実験があったら何か影響があるのだろうか。正直、物を考えて書いているようには見えない。さらに

異常プリオンには種のバリア(障壁)なるものがあり、食物中の以上プリオンは、消化管がバリアをなして無毒化され、毒性が10万分の1になるといわれる。(中略)
種のバリアとはなにか。専門家に意見を聞いたが納得がいかない。真っ赤なウソではないかもしれないが、食品に対する規制を甘くするためのひきたて役として考案した言いのがれかともおもう。まさにダブルスタンダードの片われなのだろう。こんなものにまどわされてはいけない。(p. 230-231)

なんか何もかも信じられなくなっちゃったみたいでちょっとあれである。
(まあ「天皇ヒロヒトがあの独特のイントネーションで玉音放送した年」(p. 3-4)はまだしも、『買ってはいけない』の船瀬俊介に結構依拠していたり、「ミニヒトラー小泉純一郎が絶叫した構造改革」(p. 233)といった書き方を見るだに、そういうひとなのかなとは思うのではあるが。)

追記

 ちなみにこの著者、電磁波関係でと学会にトンデモ認定されている模様。

トンデモ本1999―このベストセラーがとんでもない (カッパ・ブックス)

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藤倉珊が「わけのわからないことは全部電磁波のせい! 論理無用のホラーノンフィクション」というタイトルで『電磁波安全論にだまされるな』を扱っている。酒鬼薔薇も電磁波らしいw。