ややこしい話を自分で訳して何とか理解するスレ
Sを何らかのシステム、Eをその外部環境、Gを適当な条件下でSがとる、あるいはとりうる、状態、特性、行動様式としよう。Eはこの件に関係するすべての点で一定であり、SにおけるGの生起にとってEの影響は無視できると、とりあえず仮定しよう(この仮定は最終的には弱められる予定である)。また、Sをいくつかの部分ないし過程に分析した場合に、それらの一定数(全部でもよい)の活動がGの生起にとって因果的に関係する、そういう分析の仕方が可能であると仮定しよう。議論を単純にするために、この分析によって得られる部分は三つだけ存在するものとし、これらの部分はいずれも、互いに異なる複数の条件ないし状態の一つをとることができると仮定しよう。ある時点において各部分がとる状態はそれぞれ「Ax」「By」「Cz」という述語で表されるものとする。各添字がとる数値は、各部分がそれぞれとる状態を示すものとする。このように定めることで、「Ax」「By」「Cz」は状態変数となる。ただし、これらは必ずしも数値変数ではない。各部分の状態を表すのに、数値尺度が利用できるとは限らないからである。こうして、ある時点においてGに因果的に関係するSの状態は、行列(AxByCz)を特定することによって表されることになる。さて、状態変数が非常に複雑な形をとることもありうる。たとえば「Ax」が、ある時点における人体の末梢血管の状態を表すということもありうる。また状態変数は、個別座標をとることもあれば、統計的座標をとることもある。しかし、議論を無駄にややこしくするのを避けるために、状態変数がどんなものであるかということとは関係なく、その変数が表す状態に関してSは決定論的システムであるということにする。つまりSの状態変化は、異なる二時点においてSが同一の状態をとっているならば、その時点から同一時間だけ経過した後のSの状態もまた同一となるように生じるものとする。
もう一つ、重要な一般的仮定を明示しておかなければならない。すなわち、各状態変数が、各部分の状態を表すためにとりうる「値」は、その変数が表すSの部分についての既知の性質と両立しうるものでなければならないという仮定である。したがって、「Ax」の値は、一定の階級「KA」の内部に限定される。他の二つの状態変数についても、許容される値はそれぞれKBおよびKCの内部に限定される。なぜこういう限定をしないといけないのかについては、次の例を考えてみれば明らかだろう。Sを人体、「Ax」が末梢血管の膨張度を示すものとする。すると、この膨張度は一定の最大値を超えることはないことが明らかである。血管の平均直径をたとえば5フィートと仮定することはばかげているからである。他方、ある時点においてある状態変数がとりうる値は、その時点において他の状態変数がとりうる値とは独立であると仮定する。これは、ある時点におけるある変数の値が、他の時点における他の変数の値から独立であるといっているわけではなくて、特定時点でのある変数の値が、まさにその時点での他の変数の値の関数ではないといっているだけなので、この点誤解のなきよう。状態変数に関してこの仮定をおくのは普通であって、その一つの目的は、不要な状態座標を排除することである。たとえば古典力学では、ある時点における質点の位置座標と運動量座標が状態変数となる。ある時点における質点の位置は、一般にその質点の、以前の運動量(と位置)によって決まるわけだが、ある時点における位置が、その時点における運動量の関数として決まるわけではない。もしある時点における質点の位置が同時点における運動量の関数だったとしたら、古典力学における質点の状態を特定するための状態変数は一つでよい(運動量だけでよい)ということになり、位置に言及することは不要ということになってしまう。本稿の議論も同様に、不要な状態変数はおかないことにしており、その結果、各状態変数の値がKA、KB、KCの各集合の内部に含まれるものである限り、各状態変数の値の任意の組み合わせが、行列(AxByCz)を特定するものとして許容されることになる。これは要するに、上記但し書きを別として、Gに因果的に関係するとされるSの状態を分析する場合には、ある時点における状態を記述するために採用される状態変数が相互に独立となるようにしなければならない、ということである。
ここで、ある初期時点においてSが状態(A0B0C0)にあるならば、Sは性質Gを持つか、そうでなければ、何回かの変化を経てGを持つに至るかのいずれかである、としよう。このようなSの初期状態を、「Gという結果をもたらす原因となる状態」、あるいは短縮して「G状態」と呼ぶことにする。Sの可能な状態がすべてG状態であるわけではない。Gに因果的に関係するSの部分が、他の部分の状態をどんな風に組み合わせてもSにとってのG状態とはならないような状態をとる可能性はあるからである。たとえば、Sを人体、Gを体温が華氏97度から99度の間になるという性質とし、Axを先ほどと同じく末梢血管の状態、Byを甲状腺の状態、Czを副腎の状態としよう。この場合、Byの値が、AxおよびCzがそれぞれどんな値をとろうとも、その後決してGが実現しないような値になるという可能性がある(たとえば急に激しい運動をした結果として)。また、Sがとりうる状態の中に、G状態が存在しない可能性(つまりSにおいてGが実現する可能性が存在しないという可能性)も当然ある。たとえば、Sを人体とし、Gを体温が華氏150度から160度の間になるという性質とすれば、SにとってG状態は存在しないことになる。他方、SのG状態が複数存在するという可能性もある。しかしG状態が複数存在する場合には、(Sは決定論的システムだという仮定から)ある時点におけるG状態は、それ以前にSがとった状態によって一意に決まることになる。このようにSのG状態が複数存在する場合というのは本稿の議論に特に関係する場合であるから、以下でより詳しく考える必要がある。
再度、ある初期時点t0においてシステムSがG状態(A0B0C0)にあると仮定しよう。ここで、Sに変化が生じて、t0に後続する時点t1において状態変数「Ax」がA0以外の値をとることになったとしよう。t1において「Ax」がどんな値をとるかは、一般に、Sにどんな変化が生じたかによって決まるが、t1における「Ax」の値が複数の要素を持つ集合KA’ (これはKAの部分集合である)に含まれ、他の状態変数についても以後一定の変化が生じる限り、Sはt1においても依然としてG状態にあるものとする。ここでは、KA’の要素はA1とA2の二つだけとし、また(A1B0C0)も(A2B0C0)もG状態ではないとする。これは要するに、変化の結果A0がA3(これはKAの要素ではあるが、KA’の要素ではない)になった場合には、SはもはやG状態にはないということであり、また「Ax」の新しい値がKA’の要素であったとしても、この変化がSに生じる唯一の変化である場合には、やはりSはt1においてG状態にはならないということである。しかしここではSを、A0が変化してt1における「Ax」の値がKA’の要素となった場合には、それに合わせて他の状態変数の一部または全部の値も変化して、SがG状態に留まるように構成されているものと仮定する。
では他の状態変数はどのように変化するかというと、それは以下のとおりである。A0の変化に対応して、時点t1における「By」「Cz」の値もそれぞれ一定の集合KB’およびKC’の中に含まれるものとなる(もちろんKB’はKBの部分集合であり、KC’はKCの部分集合である。ただし真部分集合とは限らない。)場合には、KA’の中に含まれる値のそれぞれに対して、Sをして時点t1においてもG状態にとどまらせるような「By」「Cz」の値の組み合わせが、それぞれKB’とKC’の中から一意に決まることになる。これらの組み合わせを要素とする集合をKBC’としよう。他方、「By」「Cz」の値の変化に対して、対応する「Ax」の変化が起こらない場合には、システムSは時点t1においてはG状態ではなくなる。つまり、時点t1におけるSの状態変数の値が、そのうちの二つは集合KBC’の中に含まれるものであるにもかかわらず、もう一つの変数の値がそれに対応するKA’の要素でない場合には、SはG状態ではなくなるということである。たとえば、A0がA1に変化した場合には、初期のG状態(A0B0C0)がG状態(A1B1C1)に変化するが、(A0B1C1)はG状態ではないとする。さらに、A0がA2に変化した場合には初期のG状態はG状態(A2B1C2)に変化するが、(A0B1C2)はG状態ではないとする。この例では、KA’にあたるのは集合(A1, A2)であり、KB’にあたるのは集合(B1)であり、KC’にあたるのは(C1, C2)であり、KBC’にあたるのは[(B1, C1), (B1, C2)]であり、A1に対応するのが(B1, C1)の組み合わせであり、A2に対応するのが(B1, C2)の組み合わせである。
以上述べてきたことをまとめて、いくつかの定義を導入する。Sが、次の四つの条件を満たすシステムであると仮定する。(1)Sを、相互に関係する部分ないし過程の集合へと分析することができ、そのうちの一定数(たとえばA、B、Cの三つ)はSにおける一定の性質ないし行動様式Gの生起にとって因果的に関係するものとする。任意の時点において、Gに因果的に関係するSの状態は、三つの状態変数「Ax」「By」「Cz」にそれぞれ値を割り振ることによって特定することができる。任意の時点において、状態変数の値は相互に独立に与えることができるが、各変数がとりうる値は、Sが示す性質によって、それぞれ一定の集合KA、KB、KCの内部に限定されることになる。(2)ある期間Tに含まれるある初期時点においてSがG状態にある場合、一般に、状態変数のどれかが変化するとSはG状態から外れることになる。状態変数のうちの一つ(たとえばパラメータ「A」)で変化が始まったとしよう。で、期間T内でt0より後の時点t1においてこのパラメータがとりうる値が一定の集合KA’内に含まれるものとしよう(ただし、システムの状態変化がこれだけに限られる場合には、SはG状態から外れることになる)。この最初の変化のことをSにおける「第一次変化」と呼ぶことにする。(3)しかし、Sの各部分A、B、Cは相互に関連しあっていて、Sに第一次変化が起こった場合には、それ以外のパラメータも変化して、t1においてそれぞれ一定の集合KB’およびKC’に含まれる値をとることになる。BおよびCに生じるこれらの変化は時点t1におけるこれらパラメータの値の組み合わせを一意に定める。この値の組み合わせは、集合KBC’の要素である。ただし、最初のG状態にあるSに生じる変化がこれらBおよびCにおけるものだけで、対応する第一次変化が起こらない場合には、時点t1においてシステムSはG状態から外れることになる。(4)しかし実際には、KA’の要素とKBC’の要素とは互いに一意に対応していて、Sが、これらの対応する値の組み合わせによって特定される状態をとる場合には、Sは時点t1においてG状態であり続ける。この、第一次変化によって引き起こされ、KBC’に含まれる値の組み合わせによって表されるSの状態変化のことを、Sの第一次変化に関する(つまりKA’に含まれる、パラメータ「A」がとりうる値に関する)Sの「適応的変化」と呼ぶことにする。最後に、システムSが、期間Tにおける初期時点およびそれ以降の時点のあらゆる組み合わせに対して、これらの仮定をすべて満たす場合には、Gに関するSの各部分は「期間TにおいてGに関して指向的に組織されている」、あるいはGおよびTへの言及が自明視できる場合には、もっと短縮して「指向的に組織されている」ということにする。
ネーゲル『科学の構造』pp. 411-415
つまり、「システムが特定の状態を維持する」ということがどういうこととして記述できるかを、なんかしらんけどややこしく書いてくれているわけですね。
追記
ある状態(G状態)にあるシステムに攪乱が生じたとき、「あ、こりゃいかん、はよ元に戻さな」とシステムが思って、がんばって元に戻す、というのがシステムの自己維持という現象の目的論的記述だが、そんな記述せんでもええで(非目的論的な記述に還元できるで)、という話だった。