事後遡及成立論はシステム理論と両立しない

 この点を指摘している点で佐藤俊樹論文は価値があると思う。しかしその後の展開がよくない。だからルーマンのシステム理論は冗長だ、という方向に行くのではなく、だからルーマンは事後遡及成立論ではないという方向に進むべきだった。
 行為でもコミュニケイションでもいいが、ある事象が成立するのにどういう先行条件が潜在的に必要であるかを考えるのがシステム理論である。「行為はシステムとしてのみ可能」という発想をルーマンパーソンズから明示的に受け継いでいる。事後的な帰属によって“あったものとされる”みたいな事後遡及成立論ではこの視点に立てない。
 パーソンズは、因果科学の枠内で、行為を複数の要因の複合体として捉えた。だから行為を「分析」することがパーソンズの至上課題だった。そして分析の結果析出される各下位システムそれぞれに既存の学問分野を割り当てて、行為理論の名のもとに学際的な協力関係を構築することができると考えた。
 ルーマンは、行為(コミュニケイション)を、複数の可能性の中からの一つの可能性の実現と捉えた。だからその実現の前提となる、(それ自体は実現・顕在化しない)可能性の限定をシステムの構造と捉え、さらに進んで、それが先行する行為(コミュニケイション)によってなされると考えることで時間的に前後する行為(コミュニケイション)間の接続を、システムの存続と捉えることになった。