サイモンほか『行政学』第二章「政府組織はどうやってできるか」

Herbert A.Simon, Donald W. Smithburg and Victor A. Thompson, 1950, Public Administration, Alfred A. Knopf, Chapter 2 "How Governmental Organizations Originate" pp. 25-

イントロ

  • 政府組織も他の公式組織と同じで、誰かが何らかの目標を実現するためにつくったものだよ。できたときの事情によってどんな組織になるかが違ってくるよ。あとできたときの様子は文書とかで残っていることが多いから研究しやすいよ(日常的な環境適応過程は資料が残っていないことが多いよ)。
  • 組織のでき方としては、新しい仕事ができてそのために新しい組織をつくるのと、既存の複数の仕事を一手に引き受ける組織をつくるのの二種類があるけど、この章の事例は前者に限るよ。あと、新しい組織をいきなりつくるのと、既存組織の中に担当部署を設けてそれがあとで独立するのの二種類があるけど、これについても前者に限るよ。

問題があるから組織ができる

  • 問題があって、それを解決するために政府組織がつくられるわけだけど、その様子を説明するには、(1)どうして個人で解決するのでは駄目で組織が必要なのか、(2)どうして非政府組織(私企業とか)ではなくて政府組織でないといけないのか、を理解しないといけないよ。(それと、(3)その組織が政府構造のどこに位置するか、(4)どういう組織形態をとっているか、も忘れてはいけないよ。)
  • (1)については第一章で論じたよ。(2)について考えるためには、政府には何ができるか、みんなは政府をどう見るか、を考えないといけないよ。

政府にできること

  • 政府は課税によって歳入を増やすことができるのと、政府組織外の人々の行動を統制することができるよ。公衆衛生(伝染病対策とか)は政府のこういう能力がないとできないね。

共同体は政府をどう見るか

  • 政府の介入の是非論は、まずは市場メカニズムの評価だよ。反政府主義者は政府の介入はできるだけないほうがいいという自由市場主義を唱え、親政府主義者は市場機能を全否定するのではなくて、自由の確保のために介入が必要というよ(独占禁止とか)。
  • もう一つは個人権利保護だよ。ロックに由来する自由主義者は反政府だよ。
  • もう一つは人道主義だよ。親政府主義者は、政府は弱者を保護しろというよ。反政府の側もこれを全否定することはなく、その効果を疑問視するよ。

組織成立までの諸段階

  • 問題の発生から組織の成立までは、誰かが問題を発見して、文章等でそれが発表され、それで問題がみんなに認知され、いろんな解決法が提案され、どの解決法がいいかが議論され、選ばれた解決法を実行するための組織がつくられる、という感じで進むよ。

必要性の認知

  • 問題と解決の必要性を発見するのは、その分野担当の政府組織の人間である場合もあれば、政府外の人間である場合もあるよ。

組織的サポートの確保

  • 問題が認知されてからそれを担当する政府組織が成立するまでの間に、非政府組織がその問題に対応するということがよくあるよ。

拡大期

  • 政府には拡大期というのがあって、そのときできた組織がその後も残るという事例が多いよ。戦争や恐慌みたいな危機的な状況や、急激な人口増大の時期、新しい解決法が開発されたとき、がそうだよ。

組織ができたあと

  • できるまでも大事だけどできたあとも大事だよ(おっきくなるよ)。1862年の七五三のときの農務省の写真を見て1950年(本書の出版年)の大人になった農務省と同じ人(組織)だとわかる人はいないよ。

できる前とできた後の違い

  • 一番違うのは当該問題の解決に専門的に従事する仕事の人ができるということ。この人たちが、組織の存続とかとの関係で仕事の範囲を増やしたりいろいろするよ。

組織が発達するきっかけとなる影響

  • 外部の支援集団があれやれこれやれといってきたり、新しい長が設立趣旨と違う考え方を持っていたり、社会が解決すべき問題が変化したりすると、組織は設立当初の目的(問題解決)から逸脱して発達するよ。

慣性に向かう要因

  • 組織拡大に向かう力に対して、組織の現状維持に向かう力もあるよ。個人的・制度的な習慣形成、設備投資や訓練の固定化、前例主義、新しいことに取り組むための人的コスト、現状に合った人材を採用する傾向、とかがそうだよ。

公的関心の沈静

  • 慣性の法則は、新しく作るのは大変だけど、できてしまえばこっちのもんていう面もあるよ。反対者もなくしちまえとはいわずに、予算を減らせくらいしかいわなくなるよ。

何が組織の形態や構造を決めるか

  • 組織設立への反対論は、(ほんとの理由が別にある場合でも)組織形態や構造がいかんということを根拠にすることがあるよ。

州の権利

一つの論点は地方自治主義だよ。連邦が州に、州が郡に、郡が市に、それぞれ介入するのはけしからんというよ。

法の支配

  • もう一つの論点は法の支配だよ。何でも成文法にせないかんし、裁量が必要なときでも基準が明文化してないといかんていうよ。

独立か長の責任か

  • 組織の責任体制をどうするか。
  • 単独個人が当該組織のことについて全責任を上位組織に対して負うというやり方があるよ。これは効率的だし、責任の系統がはっきりするからいいよ、っていうよ。
  • 独立した役員会が組織を統べるというやり方もあるよ。これは上位組織がないので外部からの影響を排除して仕事に専念できるよ、っていうよ。

法的制限と組織形態

行政組織である以上、つねに何らかの法的基礎を持っているよ。

立法府と組織形態

というわけで、どういう設置法になるかで組織形態がかなり決まるよ。ただ新しく法律をつくるといろいろ面倒なので既存の法律を使うことが多いよ。

司法審査の問題

  • 立法によってできた組織も、司法府によって合憲と判断されないといけないよ。重要なものを挙げると、(1)権力分立、(2)立法権力の委譲に対する制限、(3)適正手続だよ。

結論

 この章では、一つの政府組織が新しくできるまでの様子を、大まかに見てきました。その過程は、まずある個人や小集団が何らかの問題を発見し、その問題を処理するには政府の活動に頼るしかないと考えられるところから始まりました。そして発見された問題は、まるで池に投げ入れられた石のように波を立て、その波は他の集団や個人がその問題の存在に気づくまで広がっていくのでした。
 最初に問題に気づいた集団の提案に対して、後から問題に気づいた集団は、それぞれの信念や利益、問題の捉え方、動機に基づいて様々な反応をすることになります。その提案が時宜に適ったものであれば、それはただちに具体的な組織形態をとることができます。もしその提案が、提案された側の経験や利益の外部にあるものである場合には、提案は無視され、最初の集団の努力は多くの場合、すぐに立ち消えになってしまいます。
 この本では、これ以降、すでに存在している組織の研究に多くのページを割くことになりますが、この章の中心となる概念、つまり、組織が成長するか衰退するかは、組織の掲げる目標と、組織に参加する個人の動機や利益関心との間の相互作用によって決まるという考え方は、この本全体にとっても中心的な主題となります。(p. 54)