刑法:罪刑法定主義と絶対的不定期刑の禁止  司法書士試験過去問解説(昭和63年度・憲法・第24問)




昭和63年度司法書士試験(刑法)より。設問の全体は、刑法:罪刑法定主義

  • 2  長期も短期も定めずに言い渡される不定期刑も,法律の定めがあれば,罪刑法定主義に反しない。


たとえば、窃盗罪は刑法235条で定められています。

  • 235条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

ここには、何をしたら窃盗罪になるか(「他人の財物を窃取」)と同時に、窃盗罪になったらどうなるかも明記されています。「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですね。これにもとづいて、判決では「懲役3年」みたいな感じで刑罰が科されることになります。刑法の罰則においては、その罪に対する刑の範囲が限定されていて、判決で満期まで(刑期が明けるまで)の期間が特定されるわけです。
このように、何をしたらどうなるかがあらかじめ定まっていることが、罪刑法定主義の本質的要請ですが、そのなかで、刑罰の種類だけでなく期間も定まっていることは、罪刑法定主義が保障しようとする個人の行動の自由にとって不可欠な条件だと言えるでしょう。
選択肢の「長期も短期も定めずに言い渡される不定期刑」というのは、要するに、「とりあえず懲役してもらうよ。いつ出られるかは決めないよ。」ということであって、いま述べた個人の行動の自由という観点からは望ましくないことが明らかです。なので、法律で定めようがどうしようが、そのような不定期刑(絶対的不定期刑)が、罪刑法定主義に反することは明らかです。
そもそも罪刑法定主義というのは、罪刑が「あらかじめ」「法律で」「決まっている」ことを要請するものです。それに対して、絶対的不定期刑を、「あらかじめ」「法律で」定めたとしても、それは罪刑が「決まっている」ということに反します。「あらかじめ決めない」ことが「決まっている」からいいんだ、という理屈は、これは詭弁というものでしょう。
なので、選択肢2は間違いです。



刑法
罰則が存在しでも,その内容が不明確であれば,何が犯罪であるかがあいまいではっきりせず,何が具体的に犯罪かが法の適用者により事後的に決せられることになるから,法律主義及び事後法の禁止に反することとなる。したがって,不明確な罰則は,実質的に罪刑法定主義に違反し,許されない。罰則の不明確性は,犯罪の成立要件及び、法定刑について問題となるが,実際に争われるのは前者である。
(略)法定刑については, 刑の種類又は刑の量を定めない罰則の合憲性が問題となる。絶対的不確定刑は許されないとされているが,わが国の法定刑の幅は,一般的に,相当広くなっている(たとえば,殺人罪の法定刑は,死刑から懲役5年までであり,刑の減軽を考慮すれば,その幅はさらに広がる)。



山口厚 『刑法』 14頁