憲法:社会権としての労働基本権  司法書士試験過去問解説(平成18年度・憲法・第3問)




平成18年度司法書士試験(憲法)より。正誤問題の選択肢。設問全体については、憲法:自由権と社会権

  •  「労働組合法が不当労働行為について規定し,労働委員会による救済を定めていることは,労働基本権の保障に沿うものである。」という場合,「労働基本権」は,(b)[社会権]の性格を有するものとして用いられている。


労働組合法はまず7条で、「不当労働行為」を定め、使用者に対してそれを禁止しています。

使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

  • 1. 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
(以下4.まであるが略)

いろいろ書いてますが、労働者が労働組合に加入して活動する自由を、使用者が妨害するのを、国家が法律で禁止しているという関係が重要です。国家は、使用者が労働者の自由を制限する自由を制限しています。つまり国家は、使用者の自由を制限するという「作為」によって、労働者が使用者から不当に扱われることがないようにしているわけです。
労働組合法では4章で労働委員会について規定しています。特に20条では、

労働委員会は(中略)不当労働行為事件の審査等並びに労働争議のあつせん、調停及び仲裁をする権限を有する。

とし、また27条の12では、

労働委員会は、事件が命令を発するのに熟したときは、事実の認定をし、この認定に基づいて、申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令(以下「救済命令等」という。)を発しなければならない。

としています。不当労働行為があったかどうかを見定めて、あったなら救済の命令を発するのが労働委員会だということです。


他方、憲法では28条が労働基本権=労働三権を定めています。

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

勤労者(労働者)が団結してできた団体が労働組合です。労働組合の結成とそこでの活動が憲法で保障されているわけです。
これと、上記の労働組合法での「不当労働行為」の(使用者に対する)禁止や、不当労働行為があった場合の労働委員会による救済、といった話を見くらべてみれば、労働組合法が、憲法28条の労働三権を保障するものであることがよくわかります。
そもそも憲法28条のような権利保障があるのは、使用者と労働者に、それぞれ完全な自由を与えておくと、雇われる側より雇う側の方が優位に立つために、労働者が劣悪な環境や条件のもとで働かされてしまう、という事情のためです。だから、ここで保障されている労働三権は、使用者と労働者の関係に対して国家が何もしないでいるという意味の「不作為」を求めるものではありません。ほっとくと大変なことになるので、国家が積極的に労働者の味方をするという「作為」によって、使用者と労働者のあいだのバランスをとろうということなのです。
だから、労働基本権は社会権であり、選択肢オは正解です。



憲法 第四版
契約自由の原則が全面的に妥当している場合には、現実の労使間の力の差のために、労働者は使用者に対して不利な立場に立たざるをえない。労働基本権の保障は、劣位にある労働者を使用者と対等の立場に立たせることを目的としている。(中略)労働基本権は、まず、(1)社会権として、国に対して労働者の労働基本権を保障する措置を要求し、国はその施策を実施すべき義務を負う、という意味をもつ。



芦部信喜 『憲法 第四版』 261-262頁

憲法〈1〉
資本主義体制の下で経済的弱者の立場にある労働者にとって、憲法25条の生存権保障や27条の労働権保障は、いわば必要最小限の生活条件の確保のための消極的な保障にあたるものであるが、憲法28条はさらに、労働者が使用者との関係において、実質的に自由・平等たりうるための積極的な保障を行っている。すなわち「勤労者の」、「団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」を保障しているのである。近代法の原別である契約の自由は、当事者が対等の立場にあるときにのみ真の意味で成り立つものであり、資本主義体制の下で使用者との関係では不利な立場にある労働者にとっては、労働契約に関して真の意味の自由が存在しない。しかし、たしかに個々に分離された労働者は、使用者と対等の立場には到底立てないが、団結し、団体的に行動することによって労働条件その他の設定に関し、実質的に対等の立場に立ちうる。こういう考え方に基づき、団結し、団体行動をする権利を労働者に保障することによって労使の立場を調整しようとする趣旨である。ここで保障されている権利を総称して、労働基本権と呼ぶ。(中略)
第三は、国(労働委員会)による行政的救済を受ける権利という側面である。その実現のためには、労働基本権に対する使用者の侵害行為から労働者を行政的に救済する方法の確立が要請される。これは、不当労働行為制度として労働組合法に具体化されている。



野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利 『憲法I 第4版』 502-503頁

憲法
労働基本権は、その主体が労働者に限定される点で、厳密な意味での人権(すべての個人の権利)とは異なっている。この権利の保障は(中略)労働基本権を実現するために行政的な救済を受ける権利の側面を含んでいる。これらの権利は、使用者が労働基本権の行使を理由として解雇などの「不当労働行為」を行うことを禁じるもので、労働組合法がその具体的内容を定めている。



憲法 (新法学ライブラリ)
憲法28条の規定する労働基本権は経済的に弱い立場にある労働者に,勤労条件の交渉の際,使用者と対等の立場を確保するための権利である。国家と個人の中間に位置する団体に敵対的な態度をとった近代憲法と異なり,現代の憲法は労働者に団結権を認める一方,私企業については,過度の経済力の集中による弊害を排除するための独占禁止法制を用意し,これが市場経済におけるベースラインとなっている。
(中略)
さらに,杜会権であることから,国には労働基本権を確保し,具体化する積極的施策を講ずる義務がある。労働組合法は,このような施策の典型例である。



長谷部恭男 『憲法 第4版』 290-291頁

憲法
憲法が団体交渉権を認めた結果,各種の法的効果が生じる。(中略)第4は行政的救済である。法律による行政の原理の下で,強制力をもつ行政活動には具体的な法律上の根拠を要するため,その要件・効果を労働組合法が定める。使用者が正当な理由なしに団体交渉を拒否すると不当労働行為となって,労働組合労働委員会による救済を受けることができる。



渋谷秀樹 『憲法』 281頁