憲法:社会権としての知る権利  司法書士試験過去問解説(平成18年度・憲法・第3問)




平成18年度司法書士試験(憲法)より。正誤問題の選択肢。設問全体については、憲法:自由権と社会権

  •  「知る権利が具体的請求権となるためには,これを具体化する情報公開法等の法律の制定が必要である。」という場合, 「知る権利」は,(a)[自由権]の性格を有するものとして用いられている。


「知る権利」は、文脈によって、自由権的な性格を示すこともあれば、社会権的な性格を示すこともあります。
自由権としての知る権利は、情報発信側の権利としての「表現の自由」として保障されている事態を、情報を受信する側から改めて保障したものです。
憲法21条1項には

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

として、表現の自由の保障が定められています。これは、2項で特に

検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

と定められているように、情報発信側の行為に対する国家の介入を禁じたもので、国家による不作為を求めるものですから、表現の自由は(もちろん)自由権です。
そうして自由に発信された情報を、受信側が「知る」行為の自由を保障したもの、つまり国家の介入を禁止したものが「知る権利」です。なので、この意味での「知る権利」は自由権です。


他方、情報公開法は1条でその目的を

この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。

と定めています。「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務」(なお政府が「有する」のは「責務」です)とあるように、政府=国家が「しなければならないこと」(作為)を定めているわけですから、上記選択肢にあるように、この情報公開法が「知る権利」を具体化したものであるなら、この文脈での「知る権利」は社会権でなければなりません。
したがって、上記選択肢イは間違いです。



憲法 第四版
さらに、知る権利は、積極的に政府情報等の公開を要求することのできる権利であり、その意味で、国家の施策を求める国務請求権ないし社会権(国家による自由)としての性格をも有する点に、最も大きな特徴がある。ただし、それが具体的請求権となるためには、情報公開法等の制定が必要である。



憲法〈1〉
知る権利は、国民が情報を収集することを国家によって妨げられないという自由権としての性格を有するにとどまらず、国家に対して積極的に情報の公聞を要求する請求権的性格を有し、(中略)。憲法21条によって政府に対し情報の公開を求める権利が保障されているとしても、個々の国民が裁判上情報公開請求権を行使するためには、公開の基準や手続等について、法律による具体的定めが必要であり、憲法21条は抽象的な請求権を認めたものと解されている。



野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利 『憲法I 第4版』 338頁

憲法
今日の情報公開法制定の動向や情報公開条例制定の動向などは、公権力に対する作為を求める点で、「知る権利」の請求権的性格を重視したものといえるが、情報公開請求権は抽象的権利と解するのが通説であり、具体化するための立法が要請される。



憲法 (新法学ライブラリ)
知る権利は,一般市民に情報を伝達するマスメディアの自由を導くだけではなく,一般市民が積極的に政府に対し,その保有する情報の開示を求める権利をもその内容とするといわれる。(中略)もっとも,憲法21条を根拠に直接,裁判所に政府保有情報の開示を求めることは難しい。この権利は実現のために政府の積極的な行動を要求するため,開示の対象となる情報の範囲,開示の費用負担などについてなんらの基準も存在しないところで,裁判所が政府のとるべき行動を的確に指示することは困難である。このため,情報公開を政府に義務づける具体的立法(国レベルの情報公開法,地方レベルの情報公開条例)が,実現のためには必要となる。



長谷部恭男 『憲法 第4版』 217-218

憲法
第2に公的機関に集積された情報の開示請求の面では,国家(政府)への自由(参政権)の性格をもつ。これが具体化されると情報公開請求権となる。(中略)情報公開制度は,上記の3種の知る権利のうち,第2のものを保障する。情報公開請求権は,(中略)一般には公的機関に情報開示という積極的作為義務を要求する権利と解されている。憲法は抽象レベルにおいてのみそのような権利を承認しており,この権利を裁判所で実現できる権利(具体的権利)とするためには,法令の整備が必要と解するのが多数説である。情報公開条例および情報公開法はそのような整備が地方公共団体の条例および法律の形式で具体化したものである。



渋谷秀樹 『憲法』 339-340頁