憲法:自由権と社会権  司法書士試験過去問解説(平成18年度・憲法・第3問)




平成18年度司法書士試験より。

人権は,(a)その行使を妨げる国家の行為の排除を要求できるという自由権としての性格を有する場合と,(b)国家に対し一定の作為を要求できるという国務請求権ないし社会権としての性格を有する場合とがある。次のアからオまでの記述のうち,(a)又は(b)の分類として誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。

  •  「生活保護法の定める保護基準が不当に低い場合には,生存権を侵害する。」という場合,「生存権」は,(b)の性格を有するものとして用いられている。

  •  「知る権利が具体的請求権となるためには,これを具体化する情報公開法等の法律の制定が必要である。」という場合, 「知る権利」は,(a)の性格を有するものとして用いられている。

  •  「全国一斉学力テストの実施は,教師の教育の自由を侵害するものではない。」という場合,「教育の自由」は,(b)の性格を有するものとして用いられている。

  •  「わいせつ物頒布罪を定める刑法第175条は,性的秩序を守り,最小限度の性道徳を維持するという公共の福祉のための制限であり,表現の自由の保障に反しない。」という場合,「表現の自由」は,(a)の性格を有するものとして用いられている。

  •  「労働組合法が不当労働行為について規定し,労働委員会による救済を定めていることは,労働基本権の保障に沿うものである。」という場合,「労働基本権」は,(b)の性格を有するものとして用いられている。


ここでは、国家から何かを「されない(不作為)」権利と、「してもらう(作為)」権利がまず区別されて、個々の議論の文脈で扱われている権利について、そのどちらに当てはまるのかが問われています。
選択肢アは、生活保護法で具体化されている生存権、つまり憲法25条の生存権の話ですから、国民が「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ために、国にどれだけの生活保障を「してもらう」かが問題になっています。国の作為の問題ですから、ここでの生存権社会権です。なので正解です。詳しくは、憲法:社会権としての生存権
選択肢イは、情報公開法が、政府に情報公開しろと請求できる権利を定めたものですから、それが具体化している「知る権利」は、国に「(情報公開)してもらう」権利であって、つまり社会権です。なので間違いです。詳しくは、憲法:社会権としての知る権利
選択肢ウは、「教育の自由」と書いてあることからも明らかなように、自由権です。どんな教育をするかを、国家から強制「されない」権利ですね。なので間違いです。詳しくは、憲法:教育の自由
選択肢エは、これも「表現の自由」とあるように、自由権ですね。国民のある種の行為が刑法で「罪」とされ、処罰の対象となるということは、これは国家の介入ですから、それに対して保障される「表現の自由」は国家の「不作為」を求めているわけです。なので正解です。詳しくは、憲法:表現の自由の制限(猥褻表現)
選択肢オは、労働者が組合活動をすることによって不利な扱いを受けないように、使用者に「不当労働行為」を禁じる(=労働組合法を定める)という国家の「作為」が、憲法28条の労働基本権の保障に沿うということですから、これは社会権です。なので正解です。詳しくは、憲法:社会権としての労働基本権
というわけで、誤りの組み合わせは、イとウでした。



憲法 第四版
自由権は、国家が個人の領域に対して権力的に介入することを排除して、個人の自由な意思決定と活動とを保障する人権である。その意味で、「国家からの自由」とも言われ、人権保障の確立期から人権体系の中心をなしている重要な権利である。(中略)
社会権は、資本主義の高度化にともなって生じた失業・貧困・労働条件の悪化などの弊害から、社会的・経済的弱者を守るために保障されるに至った20世紀的な人権である。それは、「国家による自由」とも言われ、社会的・経済的弱者が「人間に値する生活」を営むことができるように、国家の積極的な配慮を求めることのできる権利である。



芦部信喜 『憲法 第四版』 81-82頁

憲法〈1〉
自由権は本来国家からの自由ということをその本質とするが、それに対してこれら社会権は、国家に一定の施策を要求する権利という性格を帯びているのである。



野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利 『憲法I 第4版』 477頁

憲法
イェリネックの分類に基づく日本の(自由権・受益権・社会権参政権の)類型論では、自由権とは「国家に対して不作為を請求する権利(国家の侵害を排除する、国家からの権利)」であり、国民の国家に対する消極的地位に基づくものとされる。ついで受益権とは「国家に対して作為を請求する権利」、社会権とは「国家に対して具体的な給付を請求する権利」であり、これらは、国民の国家に対する積極的地位に対応する。



憲法
社会権という言葉を「社会権的側面」というかたちで使用した場合,それは政府の作為を請求する権利を意味した。自由権を政府に対する不作為請求権とし,社会権を政府の積極的な作為を請求する権利とする捉え方が,それである。しかし,このような使用方法は,権利の内容と権利の現れ方を混同したものであり,分析上明確に区別すべきである。



渋谷秀樹 『憲法』 252頁