Hal Brands, Latin America's Cold War



Latin America's Cold War

  • Hal Brands, Latin America's Cold War
    • ラテンアメリカの冷戦』
       ラテンアメリカにとって、冷戦は「冷たい」戦争なんてものではまったくなかった。世界の超大国同士のあいだには、核の均衡によって、いわゆる「長い平和」が成立していたが、そんなものはラテンアメリカには無縁だったのだ。本書は、戦後期のラテンアメリカを国際的なパースペクティヴから捉えた研究としては最初のものになる。この本で著者は、冷戦期にラテンアメリカで何があったのか、なぜ事態がそこまで深刻化したのか、の説明に手をつけた。
       1940年代から1990年代前半のラテンアメリカは、まさに騒乱の歴史であった。著者はこの歴史を辿り、数々の危機と転換点について、その詳細に踏み込んでいく。キューバ革命とその余波。繰り返される暴動とその鎮圧のサイクル。国家安全保障ドクトリン、解放神学、従属理論など新しい思潮の誕生。1970年代の、米国の覇権に対する半球外交による対抗。ニカラグア革命後の中米の分断。1980年代の民主化と経済改革。
       本書で最も重要なのは、これらの事件を記述していく際に、多様な登場人物たちの体験を織り込んでいくことで、全世界的、地域的、局所的な影響力が互いに相互作用しあってラテンアメリカにおける冷戦危機が形成されていくさまを描き出すという、多国的で多層的な記述方法をとっていることだ。その結果、著者はラテンアメリカの冷戦を、単一の対立として捉えるのではなく、政治的、社会的、地理戦略的、イデオロギー的な闘争が重層したものとして捉えることに成功している。そして、余波は現在にいたってもまだ消えていないのである。