Milos Forman監督『Amadeus』 (邦題:アマデウス)

アマデウス ディレクターズカット [Blu-ray]

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自殺未遂で癲狂院に入れられた Antonio Salieri が語る Mozart の半生、というよりは、その天才に嫉妬する平凡な成功者の半生の反省。
まあとにかく、 Salieri を演じる F. Murray Abraham の演技が素晴らしい。 Mozart の音楽に触れているときの恍惚の表情が物語るのは、嫉妬というのがいかに(感情ではなく)思考と論理の産物であるかということ(同じことが、皇帝を演じた Jeffrey Jones についても言える)。
最高なのはやはり、 Salieri が Mozart を「殺す」ところ。天才の作曲の現場で、その手伝いをすることで、今まで存在しなかった何ものかが生まれる瞬間に立ち会えている悦び。神の寵愛を受けた存在の前で、自らの凡才ぶりを否応なく自覚させられる歓び。
だからこそ最後、癲狂院の中を車椅子で運ばれる Salieri は、すべての凡人に赦しを与えることができた。天才に触れ、自らを凡人と否応なく認めることができる人生の、いかに素晴らしいことか。この点で、私は彼にこそ嫉妬してしまうのだ。