京極夏彦『覗き小平次』
- 作者: 京極夏彦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/02/01
- メディア: 新書
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物語の最初と最後で、二人の関係は外面的には変わっていないが、最初には苛々が支配しているのに対して、最後には、覗く者覗かれる者としてのそれぞれの自己肯定、そしてそれに基づく安定感が支配している。その過程にも説得力がある。
怪談や怖い話の類ではない。「小平次の怪談」は、物語内で用いられる道具にすぎない。実際、登場人物たちが怖い怖いと言っていても、読者は怖がっていないお塚にこそ感情移入する構造になっているために、別に怖いとは感じない。
押し入れに知らない女がとか、ベッドの下に男が、といった話は怖い。私も時々、深夜に気になって押し入れ全部チェックとかしてしまうことがある。しかし本作はそういう話ではない。生き残った者に感情移入していれば読者が得るのは肯定感であり、肯定感が支配的である以上、恐怖を感じることはない。