Pete Travis監督『Vantage Point』 (邦題:バンテージ・ポイント)

スペインを舞台に、だいたいお昼の12時半くらいに解決する米大統領狙撃事件を、正午ちょうどから6回、視点を変えて繰り返す映画。順番としては、(1)TV中継のクルー、(2)シークレット・サーヴィス、(3)スペインの刑事、(4)米人観光客、(5)米大統領、(6)犯人一味、である。(前田有一が「8回繰り返す」と書いているのは嘘なので注意。)
こういう映画は、本当なら、視点を変えて語られることで、最初に観客が抱いていた事件のイメージが揺さぶられ、劇的に転倒し、ショックを受ける、というものであるべきだと思うが、本作では、単に、事件の全容が語られる前に時間が巻き戻され、次の再生時に少しだけ時計が進むという構成になっているために、ただ不足していた情報が別視点から提供されるだけである。なので、最初から「すごい映画」ではありえない。しかし、まあ、そういうギミック映画ですから、という潔いほどの開き直りがあるために、結構さわやかに観られる。90分というすっきり感もあるし。
ただ、ギミック映画であることにかまけて、細部の詰めの甘さはどうしても見てとれてしまう。たとえば、大統領狙撃後の混乱の中で、犯人一味の女が、爆弾の入ったバッグを演台の下に投げ込む。さらなる大混乱を起こして逃走しやすくする、ということなのだと思うが、わざわざSSたちが取り囲んでいる演台に近寄ってくる必然性はどこにもない。その辺の地面に置いておけばいいだけだろう。結果として、その様子を撮影されてしまっているのだから、やはり馬鹿げた行動だと言わざるをえない。
それから、演台の上のSSがしきりに上方の窓を気にしているのに気づいた観光客が、窓の方を見ると、そこに人影が見える。あれ、なんか変だぞと思っていると、直後に大統領が狙撃されるという場面だ。ところが、犯人はすべてリモコンで遠隔操作しているので、そこには誰もいないはずであって、これは明確な矛盾である。
もっというと、犯人はまず、リモコンで扇風機を動かして、窓のカーテンを揺らし、そこにSSの注意を集めておいた上で、別の窓からやはりリモコン操作の銃で大統領を狙撃するわけだが、その狙撃用の部屋は、なんと窓が開きっぱなしである(ほかは全部閉まっている)。それに気づかないというのはなんともお粗末な警備体制だ。
とはいえ、そんな道でやったら死人が何十人もでるぞ、というカーチェイスはなかなか見ごたえがあった。ただ、この構成の映画には不要なシーンであり、ちょっとバランスを欠いていると思う。